真夜中の訪問者(中編)



香坂幸緒





                 
 『脱げよ…』

 ひどく甘ったるい声で、目の前の傲慢な男が命じていく。
 その物言いに…強い羞恥を覚えながら、克哉は一枚…一枚、何かに操られるように
自分の衣類を脱ぎ始めた。
 言われた通り…靴下まで脱ぎ去って全裸になると…リノリウムの床の冷たさが
ひどく堪える。
 その癖…顔は燃えそうに熱くて、その激しい温度差にどうにかなりそうだった。

「こ、れで…良い、のか…?」

「くくっ…! 今夜は随分と従順だな。普段もこれくらい…素直に俺の言う事を聞いていれば
可愛げがあったんだがな…来い」

 ふいに腕を引かれて、資料室の奥にあるデスクの方に連れて行かれる。
 そこに眼鏡は腰を掛けて…スーツズボンのフロント部分を一気に引き下げていく。


「ひっ…!」

 其処から、自分を何度も深々と貫いた凶器が現れて…克哉の顔は強張っていた。

  「…そんなに恐がるな。お前は…何度も、これでイイ思いをしてきたんじゃないのか…?」

「そ、んな…事…」

 顔を真っ赤にして、目を背けるが…この男は決してそんな振る舞いを長時間許すほど
優しくはないだろう。
 予想通り、強引に引き寄せられ…頭を掴まれて、強引に股間に顔を押し付けられる。
 強烈な雄の匂いに…強い嫌悪と戸惑いを覚える。
 同性の、しかも自分自身の性器を口で愛する羽目になるなんて…何の冗談かと
思いたくなる。

「…俺の協力とやらを仰ぎたいなら、お前に…選択権は、ないぞ…。いつまで俺を
焦らせるつもりだ…?」

「焦らしたり、何か…判った。これをすれば…本当に、協力してくれるんだな…?」

「…その後の対価も払えば、な。それなら…俺は約束を違えるような真似はしないさ…」

「…判った。その言葉…信じるよ…」

 そうして意を決して、克哉は眼鏡のペニスを口に含み始めていく。
 先端を口腔に収めただけで、その苦いようなしょっぱいような独特の味と匂いに…
大きく眉を顰めたくなった。
 良く女性はこんなモノを口に含めるものだ、と心底思ったぐらいだ。

「んんっ…はっ…」

 予想以上に質感があって、こうして口に収めているだけで苦しくなっていく。
 それでも懸命に奉仕しようと…ぎこちなくだが、舌を使っていった。
 自分なら…こうして先端の割れ目や、裏筋の部分を弄るのが好きな筈だった。
 自慰をする時…自分が辿る手順や好みを思い出して、ためらいながらも…その通りに
していくと、相手の口からも荒い吐息が零れ始めていった。

「…ほう。今まで男のモノなど上では口にした事がない割には…案外、上手いじゃないか。
それとも…自分がやっている手順でも思い出しながら…やっているのか…?」

 図星を突かれて、克哉の顔が耳まで真っ赤になっていく。

「そ、んなの…どうだって、良いだろ。お前が…やれって命じたんじゃない、か…」

 先程、深く相手のモノを含んだ時、苦しかったせいで…生理的な涙を滲ませていきながら
克哉が文句を言えば…不敵に眼鏡は言い放った。

「あぁ…そうだ。もっと深く…俺を咥えろ。イカせて…くれるんだろ…?」

(イカせる…って事は、こいつのが口の中で…って事、だよな…)

 その辺を考えた時、ふいに…今までの性交の記憶が脳裏に蘇ってきた。
 自分の内部に熱い精液を注ぎ込まれる感覚が過ぎり、ふいに…自分の蕾が緩く収縮を
始めていた。

(なっ…!)

 唐突な自分の身体の変化に、克哉は戸惑いを隠せない。
 しかし眼鏡はそんな彼の変調を見逃さなかった。
 スーツの胸ポケットから何やら怪しそうなラベルを貼られたジェルの小容器を取り出すと
それをたっぷりと手に取って…克哉の臀部に塗りつけ始めた。

「やっ…! 何だよ、これ…凄い、冷たっ…!」

「あぁ…あの俺の怪しい崇拝者から貰ってな。これを貴方の夜のお相手にでも使えば
それなりに楽しめるでしょう…とか言っていたからな。試させてもらおうか…」

「怪しい、男? …はぅ!!」

 ジェルが伝い落ちて、蕾の部分に辿り着くと同時に…鉤状に曲げられた眼鏡の
人差し指が容赦なく入り込んでアヌスの縁の部分を容赦なく擦り上げていく。

「…お前に、俺を解放する眼鏡を渡した、胡散臭い男だ…」

(…Mr.R…しか、いないよな…そんなの…)

「…という訳で、どんな風に変化するのか…楽しみに見させてもらうか…」

「人で…人体、実験する、なっ…やぁ!!!」

 敏感な部分を探り当てられると、すでに口で愛撫する事などする余裕がない。
 ただこうして…男が与えてくる感覚に身をよじって、耐える以外になかった。
 しかし容赦なく快楽を引きずり出されて克哉の身体は力を失い…そのまま、その場で
倒れてしまいそうになる。

「ほら…口が、疎かになっているぞ…俺を悦くしてくれるんじゃなかったのか…」

「判っている、って……っ!!」

 そういって、口淫を再会しようとした矢先に…肉体に急激な変化が訪れていく。
 それは例えているならば…身体の奥に火が強引に灯って、勢い良く燃え上がっていくかの
ような感じだった。

「やっ…な、何…これ…凄く、熱い…」

 先程のジェルを塗られた部分が、まるで火を点けられたかのように…熱くなり、
燃えるように赤く染まっていった。

「…ほう、なかなかの効果があるみたいだな…アルコールと…少々の催淫効果があると
あの男が言っていたが…」

 唐突に宿った情欲の火に、克哉が翻弄されていると…眼鏡は、心底愉しそうに
悠然と言ってのけ…更に奥深くへと指を克哉の中に押し入れた。
―その薬を使えば、使われた者は貴方の手管に一層酔い痴れやすくなるでしょう…
 歌うように話すあの怪しい男は、そう言って自分にこの薬を渡した。
 目の前のもう一人の自分の反応を見れば、その言葉があながち間違いでなかった事を実感する。
  克哉は瞳に怪しい色合いを宿し、荒く呼吸を乱している。
  肩や腰が小刻みに震え、何かを必死になって堪えているようなその表情は…ひどく 扇情的だ。

「…なかなか艶っぽいじゃないか。そろそろ…ここに欲しくて堪らなくなっているんじゃないか?」

「あ…ぁ…っ!!」

 少し乱暴に相手の中を指先で掻き回してやると…それだけで克哉が甘く啼く。
 キュッと自分の指先をきつく締め付けてくる様子から見て…かなり目の前の相手は
欲情し、追い詰められている。
 しかしそれでも、眼鏡は許すつもりはない。更に自分のモノを相手の顔に押し付けて
奉仕の続きを要求していく。

「ほら…口元が疎かになっているぞ。俺を悦くするんじゃなかったのか…」

「な、ら…その指を、止めろよ…! そんな処を弄られていたんじゃ…続き、なんて…
出来る訳が…ない、じゃない…か…」

 泣きそうな声で訴えると、嗜虐心が満たされたのか…愉しそうな声で眼鏡は答える。
「…そんなのは俺の勝手…だろう…? それともお前の下手くそな口での愛撫の最中…
俺に手持ち無沙汰でいろ、というのか…?」

「下手、で悪かったな…。経験、ないんだから…仕方ない、だろ…!」

   憮然としながら言うと、オズオズと眼鏡の性器に再び口に咥えていく。
 熱いモノを根元まで飲み込んで…ぎこちないながらも舌先で先端を擦り上げて、チュウと
吸い上げながら…幹を上下に扱いていく。
 すると元々熱く猛っていた性器は小刻みに痙攣を繰り返し、手の中で暴れていた。
 まるで未知の生き物をあやしているみたいだった。
 そのグロテスクさに顔を背けたくなったが…そんな事を許してくれる程、目の前の男は
甘い性分ではないだろう。
 どうにか喉奥まで相手を飲み込んで、苦しそうに愛撫を続けていく。

「ひっ…!」

 しかしその最中、ふいに眼鏡は克哉の性器をもう一方の手で握り込んでいく。
 その刺激で、思いっきり腰が揺れて…また、口元を満足に動かせなくなる。

「んん、んっ…っ…」

 薄っすらと涙を浮かべながら、それでも目の前の男を満足させようと…モゴモゴと
口を動かして、奉仕を続けていく。
 その様はある意味、哀れで…同時に、眼鏡の…もっともう一人の自分を虐めて
啼かせたい、という欲求を強く刺激した。
 口腔の中に収めたモノが、ピクンと揺れて先走りが滲む。

「飲めよ…」

 頭を押さえつけながら、眼鏡が命じると…その苦味の混じった液体をどうにか
克哉は飲み込んでいく。
 技巧ではなく、相手の顔に欲情してイキそうになっている。
 苦しげで、嫌そうにしている癖に…内壁はこちらを求めてヒクつき…その顔はいやらしく
上気してまるでこちらを誘っているかのようだ。
 眼鏡は…そのまま、泣きそうになっている相手の顔を見ながら…達していく。

「くっ…!」

「っ……!」

 声にならない叫びを上げて、克哉はその熱を口内で受け止めていく。
 熱い液体がマグマのように喉奥で飛沫いて、思わず口を離しそうになったが
眼鏡がそれを許さず…注ぎ終わるまでその頭を押さえ続けていた。

「…まあまあ、だったな。じゃあ…今度は、こちらで…俺を満たして貰うぞ…?」

「…! 待て、よ…まだ、苦しくて…」

 指が怪しく蠢いて、克哉の前立腺を容赦なく刺激していく。
 それだけで腰が高く上がり、男の与える感覚に抗えなくなっていた。
 今、達したばかりの筈のモノが…克哉が啼き声を漏らす度に硬度を取り戻し
5分もすれば…元通りに硬く張り詰めていた。
 その様子を見て…克哉は恐怖心と…未知なる疼きを覚える。

  「何で…こんなに早く、復活…出来るんだよっ!」

「くくっ…お前の泣き顔が、イイからじゃないか…? ほら…俺の上に…乗れ。
ここでたっぷりと…搾ってもらうぞ…」

「…はっ…ぁ…判った…」

 どの道、今の克哉に拒否権はない。
 ようやく…相手から指を引き抜かれて、アヌスが自由になった。
 資料室のデスクの上に腰を掛けている相手の首元に腕を回して、どうにか
その上に乗り上げていく。
 自分の唾液でヌラヌラと照り光っている眼鏡のペニスを…己の蕾に宛がい
腰を沈めていこうとする。

「…俺を焦らす、な…。早く落としたらどうだ…? こんな風に…な…」

「ひっ! ひゃあっ…!」

 いきなり腰を掴まれて、深々と根元まで貫かれて…克哉は大きな嬌声を
迸らせた。
 克哉の首筋に強く吸い付いて色濃く痕を刻み込み…眼鏡は円を描くように
緩やかに腰を使い始める。

「だ、だめ…だっ! おかしく、なる…」

 先程塗られたジェルの効能と、散々前立腺を刺激されたおかげで克哉の
肉体は熱を孕んで…すでに制御が効かなくなっている。
 甘い声を何度も漏らし、悲鳴に近い高い声を何度も必死に抑えながら
眼鏡が与える感覚に耐えていく。
 もう、抗う気力など微塵もなくなり掛けていたその時。

 トントントン…。

 窓の外で未だ嵐が吹き荒ぶ中。
 資料室の扉をノックする音が幾度か、規則正しく…克哉の耳に届いた。

    今夜は何て夜なのだろう。
 もう一人の自分が本当に訪れただけでも驚いたというのに、こんな時間帯に
深く貫かれている状態の時に…新たな来訪者が来るなんて―。

「や、やめっ…こんな処、誰かに見られたら…」

 眼鏡の腰の上で激しく身を捩って逃れようとするが…そんな事を許すほど
この男は寛容でも、慈悲深くもない。
 案の定…克哉が逃れられないように己の腕の中にしっかり閉じ込めて…
甘く拘束していく。

「…雷でも光らん限りは、この部屋は真っ暗だからな。息を潜めていれば…
やり過ごせるかも、知れないぞ…?」

「…そ、んな…やっ!!…!」

 ふいに胸の突起を爪先で引っかかれて、肩を揺らしていく。
 そうしている内に…ドアをノックしていた主はドアノブを回して…室内に入ってくる。
 扉の向こうから差し込む明かりが、長時間…闇の中にいたせいで、網膜を
軽く焼くようであった。

「克哉〜! いるのか〜!」

(ほ、本多…っ?)

 自分の同僚が名を呼びながら入室してきて、克哉はぎょっとなった。
 …そういえば、自分の次に起きて入力作業をするのは本多だった筈で。
 資料を取りに行くと言ってそのまま…このような事態に気づけばなっていて。
 すぐに戻るつもりだったからパソコンの原電や、オフィスの電気の明かりとかも
点けっぱなしの状態で…自分の姿がなければ、本多が探しに来たって少しも
おかしくない。
 むしろ、自分がその立場だったなら確実に相手を探すだろう。

「…真っ暗だな。という事はここでもないって事か…仮眠室にも戻った形跡は
ないし…どっかで倒れてなければ良いんだがな…」

 …心底、今…もう一人の自分が明かりを点けないでいてくれた事を感謝していた。
 もし電灯がついていれば、確実にこの光景を本多に目撃されていただろう。
 しかも相手はよりにもよって…自分自身だ。
 同じ顔形をした人間が二人いて、しかもそいつに犯されているっていう異常な
シチュエーションをもし同僚に見られる羽目になっていたら…それだけで克哉は
死にたくなっていただろう…。

 コツコツコツ…。

 本多の足音が、こちらにゆっくりと近づいてくる。

「…電灯のスイッチって、どこにあったっけか…?」

 どうやら本多は、電灯のスイッチを探しているらしい。
 この資料室は…確か明かりは自分達が座っているデスクの辺りと、入り口から
少し奥に入った処の二箇所にあった筈だ。
 資料探しの類は、普段は片桐部長や自分が担当している事が多いので…営業
メインの本多が疎いのは仕方ない。…が、そのおかげで助かったようなものだ。

(どうしよう…もし、明かりを点けられたら…こんな、姿を…本多、に…)

 そんな想像をするだけで、身の奥が羞恥で焼き切れてしまいそうだ。
 息を必死に潜めていると…ふいに眼鏡の指が突起に伸びてきて、尖りきった
其処を片手で捏ねくり回され…唇をやんわりと舐め上げられる。

「…っ、な、何を…」

「…声を出さないように、俺が塞いでいてやろう…」

 お互いに、ごく小さい声で囁きあいながら…ふいに熱い舌先が克哉の口腔に
忍び込んでくる。
 クチュリ、という淫靡な音が…脳裏に響き、それだけでおかしくなりそうだった。
 眼鏡の手が執拗に、克哉の胸の突起と…硬く張り詰めた性器を弄り上げていく。
 奥深い処まで相手のペニスを受け入れさせられたまま…第三者がいる状況で
こんな悪戯を施されている。
 そんな異常な状態が、皮肉にも克哉の身体を今までよりも深い羞恥が苛み
深い快楽を呼び起こしていく。

「ふっ…んんっ…」

 溢れそうになる甘い声は、眼鏡の唇によって吸い取られていく。
 上も下も、この男に犯しつくされて…快楽によって支配されていた。
 相手の手をしとどに蜜で濡らし…自分の意思に反して、男の手の中で自分の
性器が暴れまわっていた。
 消えてはいけない理性が、粉々に砕かれそうだった。

(止めないと、いけない…のに…こんな、状況を…本多に見られたら…どう、
弁明すれば、良いんだ…?)

 しかし、その瞬間…眼鏡に突起に爪を鋭く立てられて、ついに堪えきれずに
高い声で啼いていく。

「あぁっ!!」

ガッシャァァァァン!!!!!



 克哉が声を漏らすと同時に、オフィスの方から盛大な破壊音が聞こえた。
 それが彼の声を打ち消し、本多の耳に届かなくしていた。

「何だ何だっ!!」

 本多は踵を返して、慌ててオフィスの方に消えていく。
 それから暫くして…バタン、と大きな音を立てて扉が閉まる音が聞こえた。

(…助かった、のか…?)

 安堵感が訪れて、一気に脱力しそうになる。
 しかし…そんな安息は、克哉にはほんの一時しか訪れなかった。

『…余計な邪魔者は注意を反らして、排除しましたよ…我が主…』

「…そうか」

(えっ…?)

 ふいに聞こえた歌うような話し方に聞き覚えがあった。

「それなら…そこで黙って見ていろ。…少しはお前の退屈しのぎになるだろう…」

『寛大な処置、感謝致します…では、ゆるりと…』

(ちょっ、と…待ってくれよ…何で、この人が…部屋の中に…? それに
見ていろって、何だよ…!)

「な、何で…こんなの、嫌だ! もう止めてくれ!!」

 もう、相手の協力なんてどうでも良くなっていた。
 ただ…この異常な状況から逃れたい一心で相手の身体の上でもがいて
身を捩っていく。
 しかし眼鏡はそんな克哉の腰をしっかりと押さえ…強引なまでに熱い性器を
捻じ込み、激しい抽送を開始していく。

「もう嫌だって…? 本当にお前は嘘つきだな…こんなに俺のをきつく締め付けて
離そうともしない癖に…?」

「やっ…やだぁ! もう…ほ、ん、とうに…止めて、くれよぉ…! あぁ!!」

 散々焦らされて追い上げられた身体は、ほんの僅かな時間…揺すり上げられた
だけでも深い快楽を覚えて、囚われていく。
 今の克哉に出来る事など―せいぜい、相手の身体に必死に縋り付いてその感覚に
耐えていくしかない。

 そんな彼の乱れた姿を…闇の中に浮かぶ、黒衣の人物が恍惚の表情を浮かべながら
じっと熱く見つめていた―。





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