バロック期の声楽用語 


オペラ opera

 オペラの語源はラテン語で“作品”の意味のオープス(opus)から来ています。オペラはオープスの複数形で、今日オペラと呼ばれているのはオペラ・イン・ムジカ(音楽劇)の略称です。
 オペラは、文学、演劇、美術、音楽を総合した舞台芸術で、音楽に関してはレチタティーヴォとアリア、重唱、合唱、序曲や間奏曲などの歌曲とオーケストラ曲が複合的に用いられています。
 
カメラータの活動によってオペラが誕生した17世紀以来、各国で、それぞれの言語や民族性と結びついた独自のオペラが発達していきました。それらは、深刻的な気分のオペラ・セリアと、喜劇的なオペラ・ブッファに大別することができます。

[目次に戻る]


カメラータ Camerata

 1580年に結成されたフィレンツェの貴族、詩人、学者、音楽家のグループの名称。彼らは15世紀半ばから16世紀に主流であった、いくつかの声部が対等の関係で絡み合うポリフォニー音楽を批判し、より言葉の抑揚を大切に扱い、詩の内容を適切に表現した音楽を作ろうと試みました。その結果、モノディ様式のバロック・オペラを創始します。
 詩人リヌッチーニの台本をヤコポ・ペーリが作曲し、1600年のメディチ家の婚礼祝いに上演されたオペラ《エウリディーチェ》は、カメラータの代表作であると同時に、現存する最古のオペラでもあります。

[目次に戻る]


モノディ monody

 1600年頃に、ルネサンス時代のポリフォニックな音楽への反動として創造された独唱音楽の様式。独唱の旋律は歌詞の抑揚を生かしたレチタティーヴォ風のもので、チェンバロやオルガンなどの楽器の極単純な伴奏に支えられています。

[目次に戻る]


オペラ・セリア opera seria〈正歌劇〉

 18世紀にナポリ楽派で成立した。従来のオペラのシリアスな部分の内容が独立した物で、神話や英雄物語、古代の歴史などを題材にして作曲されたオペラで、原則として3幕からなります。

[目次に戻る]


オペラ・ブッファ opera buffa

 オペラ・ブッファは、そのまま訳すと「道化たオペラ」または「ふざけたオペラ」という意味になります。18世紀のイタリアでオペラ・セリアの幕間に上演されたインテルメッツォ(幕間劇)が、独立して上演されるようになったことから始まります。
 音楽的手段が極度に切りつめられていることと、レチタティーヴォのかわりにセリフの対話を用いるなどの特徴があります。
 同様の喜劇オペラとしては、ドイツのジングシュピーゲル Sindspiel 、フランスのコミック・オペラ opera comique などがあります。

[目次に戻る]


レチタティーヴォ recitativo〈叙唱〉

 レシタティーフ、朗唱などとも言います。オペラやオラトリオカンタータの中に現れる半ば語るような調子の独唱部分を言います。16世紀初頭のイタリアでこのレチタティーヴォの作曲法が創始されたときに、初めて近代オペラが誕生したと言われています。

[目次に戻る]


アリア aria

 オペラ・オラトリオカンタータの中の旋律的な独唱曲。語りに近いレチタティーヴォが劇の筋書きを進行させる役割をになっているのに対して、アリアは登場人物の感情を叙情的に吐露する内容のものがほとんどです。
 典型的な3部形式(ABA)のダ・カーポ・アリア、声楽の技巧を最大限に発揮できるように作曲されたアリア・ディ・ブラヴォーラなどがあります。アリアよりもう少し小規模な歌をアリエッタ、アリアとレチタティーヴォの中間的な様式の曲をアリオーゾと呼びます。

[目次に戻る]


ベル・カント bel canto

 18世紀のイタリアで発達した歌唱法。アレッサンドロ・スカルラッティらの中期バロック・オペラと結びついて発達した歌い方で、劇的な表現性よりも、美しい響きと華麗な技巧を重んじます。また、そのような美しいメロディーに重点を置く音楽様式、あるいは作曲法を意味することもあります。

[目次に戻る]


カストラート castrato

 少年時代の声を大人になってからも保つために去勢した歌手のこと。喉頭は少年時代のままでありながら心肺機能は大人のそれであるため、女声よりも強靭で張りのある高音を出すことが出来たといわれています。16世紀から17世紀頃まで、高音域(ソプラノ)の男性歌手としてイタリアを中心にオペラ界で活躍しました。18世紀以降は次第に女声に取って代わられて活躍の場所が限定されていきました。それでも、カストラートがローマ法王によって正式に禁止されたのは1903年のことでした。

[目次に戻る]


インテルメッゾ intermezzo

 (1)ルネサンス時代、舞台劇の幕間に挿入された音楽的余興をさします。劇と音楽の結びつきから、オペラの前進のひとつにあげられます。
 (2)18世紀前半、ナポリ派の
オペラ・セリアの幕間に演じられた短い喜劇的なオペラ。まもなく独立したオペラ・ブッファへと変化していきました。

[目次に戻る]


オラトリオ oratorio

 最初は17世紀初めのローマで、フィリッポ・ネーリがはじめた在俗聖職者たちの集会(コングレガツィオーネ・イル・オラトリオ)で演奏されるすべての宗教曲をさしていましたが、次第にオペラの影響を受けたレチタティーヴォアリア、重唱、器楽などを組み合わせた複合的な宗教音楽を指すようになりました。
 オラトリオとオペラの違いは、宗教的な題材を扱うことと、所作を伴わず、語り手の役を含む歌手によって、演奏会形式で歌われることなどがあげられます。また、聖句をそのまま使わずにパラフレーズする点において、ミサ曲や受難曲とも異なります。
 17世紀中頃のローマのオラトリオには、上流階級の人々が集まる教会のためのラテン語によるオラトリオ・ラティーノと、大衆的な教会で上演されることを目的としたオラトリオ・ヴォルガーレの2種類がありました。カリッシミの《イェフタ》(1649)は、ラティーノの代表作であるとともに、音楽のジャンルとしてオラトリオという言葉が用いられた最初の作品とされています。
 オラトリオ・ヴォルガーレは、様式的にはオペラと同じで、17世紀後半から18世紀の初め頃から、教会以外の場(貴族の宮廷や劇場など)でも上演されるようになり、これが18世紀を通じて、中央ヨーロッパのローマ・カトリック圏におけるオラトリオの主流となりました。

[目次に戻る]


カンタータ cantata

 バロック時代の複合的な音楽形式。叙情的、劇的、あるいは宗教的な台本をレチタティーヴォアリア、重唱、合唱によって歌いすすめて行きます。最初は世俗的な内容の小規模な「室内カンタータ」として始まりましたが、ドイツにおいて大規模で宗教的な「教会カンタータ」として発達しました。
 J.S.バッハ(1685〜1750)は、200曲を超える教会カンタータの他、《結婚カンタータ》や《コーヒー・カンタータ》のような世俗カンタータの名作も残しています。

[目次に戻る]


セレナータ serenata

 18世紀頃に、イタリアの貴族が祝祭日の余興として上演した、短いオペラ風の作品をセレナータと呼びます。別名、“劇的カンタータ”と呼ばれることもあります。ヘンデルの《イシスとガラテア》(1720)が作例として有名でしょう。
 なお、セレナータは18世紀にはじまる交響曲より小規模な器楽曲や恋愛の歌曲を指す、セレナーデの同義語としても使われることがあります。

[目次に戻る]


ナポリ楽派 Neapolitan School

 バロック時代にフィレンツェで生まれたオペラは、その後ヴェネツィアからナポリへと中心地が移って行きます。17世紀後半から18世紀にかけて、このナポリで活動した、またはナポリの音楽様式の影響にあった一群の作曲家を総称して、ナポリ楽派と呼んでいます。

 アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)を中心とするナポリ楽派の作曲家達は、急−緩−急の3部形式からなるイタリア風序曲や華やかなダ・カーポ・アリアオペラ・セリアオペラ・ブッファなど、今日のイタリア・オペラの原型となる様々な要素を作り上げました。

[目次に戻る]


ダ・カーポ・アリア da capo aria

 典型的な3部形式(ABA)のアリア。17世紀末から18世紀前半に発達しました。ABAの最後のAの部分を記譜せずに、ダ・カーポ記号(D.C.)で再現すること事を示したことからこの名があります。

[目次に戻る]


イタリア風序曲 Italian overture

 「スカルラッティの序曲」とも言われる、アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)が創始した序曲形式。急−緩−急の3部形式からなるオペラの序曲形式で、Sinfonia と呼ばれる事もありました。弦楽合奏、または、弦楽アンサンブルに2管のオーボエとトランペットを加えたもので演奏され、後にオペラを離れて独自に演奏されるようになりました。古典派の交響曲の原型であり、モーツァルトの初期の交響曲などには、イタリア風序曲形式のものが少なからず存在しています。

[目次に戻る]


コロラトゥーラ coloratura

 技巧的で華やかに装飾された旋律の事。18〜19世紀のオペラに多く見られます。また、こうした装飾を自在に歌いこなすソプラノ歌手を《コロラトゥーラ・ソプラノ》と呼びます。

[目次に戻る]