「古楽」とは?



「古楽」とは文字通り古い時代の音楽のことで、「古楽器」とは過去に流行した楽器のことです。しかし、西洋音楽の分野では、1960年後半ごろから「音楽作品を、作曲者自身が念頭におき、また実際に演奏した楽器で、しかもその時代の演奏技法と演奏習慣に基づいて演奏されたもの」を指すようになってきました。

たとえば、J.S.バッハの《ゴルトベルグ変奏曲》を現代のピアノで演奏するのではなく、バッハ自身が使っていたチェンバロ、あるいは同じタイプの楽器、またはそれらの複製を用いて演奏する場合がこれにあたります。そして、このような場合に使われる「古楽器」は「オリジナル楽器」と呼ばれることが多くなりました。

上記のようなオリジナル楽器による古楽の演奏運動は、「オーセンティックな(歴史的に正しい)古楽演奏」と呼ばれています

「過去の音楽の復興」ということならば、1829年に当時21歳だったメンデルスゾーンが、古代遺跡のように埋もれていたJ.S.バッハの《マタイ受難曲》を上演したことにはじまります。しかしながら、チェンバロ・オルガン奏者のグスタフ・レオンハルト(1928〜)や指揮者のニコラス・アーノンクール(1929〜)らが「オーセンティックな古楽演奏」を提唱してして活発な演奏活動を始めるまでは、古楽演奏は「モダン楽器(現在の一般的な楽器)」での演奏が主流であり、「古楽器」による演奏は、一般には「骨董的演奏」とか「博物館的演奏」と言われていました。

しかしながら、レオンハルトやデイヴィッド・マンロウ(1942-76)らのパイオニア達の努力によって、本来の性能を復活させた「オリジナル楽器」を利用した演奏は、「モダン楽器」では出せない微妙な陰影が出せることなどが明らかになるに従って、「オリジナル楽器」による古楽演奏が演奏界で市民権を得ていったのです。

そして、1980年代になると、高度な技術と音楽性を備えた若い演奏家が次つぎに台頭するようになり、現在では中世の音楽からバッハやヘンデルといったバロック音楽にとどまらず、モーツァルトやベートーヴェンといった古典派の音楽からブラームスやワーグナーのロマン派の音楽やドビュッシーやラベル等の音楽までもが「オリジナル楽器」で演奏される局面を迎えています。

「オーセンティックな古楽演奏」の運動は、自分と過去の音楽とを可能なかぎり直截に対峙させ、たとえばモーツァルトやバッハの音楽思考と当時の人々の感動を同じように体験したい、といった姿勢から生まれてきたものですが、現代はより個性的で、時には主観的とさえいえる解釈の演奏すら可能になってきています。


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「古楽の楽しみ」では、このように幅広くなった「古楽」の中でも、特に『中世・ルネサンス』から『バロック』までを取り上げ、その音楽史の解説をしながら、いくつか参考になりそうな録音を紹介しようとする試みです。取り上げる録音は「オリジナル楽器」によるものが大部分を占めますが、録音としてすばらしいものは「モダン楽器」のものでも参考盤としてあげてあります。

音楽史の観点から言えば、中世以前にも音楽は当然存在していたわけで、それについての研究も多々ありますが、専門家でない私にとっては、「実際に聴くことの出来ない音楽」の解説は身に余ります。また、バッハ以降の音楽の歴史についても、私が説明するまでもなく多くの解説書や録音が存在していますので、ここでは取り上げないことにします。

本当のところ、音楽は『最初に演奏ありき』で、歴史など知らなくても十分楽しめるものなのですが、音楽をより深く鑑賞したいと言うときに、何かの役に立てればと思います。なお、音楽についてはまったく専門家でない人間が、自分の理解する範囲でいろいろ省略して書いていますので、もしこれを読んで古楽系の音楽や音楽史に関心を持たれた方は、以下にあげる参考書を読んでいただければと思います。

 
 
書名著者出版社など
『ルネサンス音楽』皆川達夫講談社現代新書
『バロック音楽』皆川達夫講談社現代新書
『バロック音楽』礒山 雅NHKブックス
『古楽のすすめ』金澤正剛音楽之友社
『ルネサンス・バロック名曲名盤100選』皆川達夫音楽之友社
『古楽への招待』 立風書房
『古楽CD100ガイド』  国書刊行会
『中世音楽の精神史』金澤正剛講談社選書メチエ
『J.S.バッハ』礒山 雅講談社現代新書
『ルネサンスの歌物語』岸本宏子音楽之友社
『ルネサンスの音楽家たち』T・U今谷和徳東京書籍
『西洋の音楽と社会』1〜5 音楽之友社
『グラウト/パリスカ 新西洋音楽史』(上)(中) 音楽之友社
『音楽史の中のミサ曲』相良憲昭音楽之友社


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