バロック期の器楽用語 


通奏低音 basso continuo [伊]、Generalbass[独]

 17,18世紀のヨーロッパの演奏習慣として、作曲家は旋律と低音だけを書き記しました。低音はひとつの通奏楽器――例えばチェンバロやオルガンなどの鍵盤楽器、あるいはリュートやハープなどの撥弦楽器が担当し、通常はそれにヴィオラ・ダ・ガンバ、チェロ、ファゴットのような音を保つ低音楽器が補強として使用されます。この時、鍵盤楽器や撥弦楽器の奏者は与えられた低音の上に、即興的な和音を補いながら伴奏声部を完成させました。このような演奏習慣や記譜方法を通奏低音と呼んでいます。
 即興的に付される和音の基本形は楽譜に音符としては記入されず、低音声部の上または下に特定の数字を記入して表したことから、〈数字付き低音 figured bass〉とも呼ばれています。

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ソナタ sonata

 イタリア語の sonare(鳴り響く)に由来する〈ソナタ〉は、16世紀、17世紀のルネサンス後期からバロック初頭にかけて、広く『器楽曲』の意味で用いられ、特に明確な定義を持ちませんでした。従って、ルネサンス後期に作られたカンツォーナもソナタもはっきりした内容や構成の違いはありません。
 17世紀初頭になるとソナタは通奏低音付きの1つまたは2つの旋律楽器(通常はヴァイオリン)のために書かれることが多くなり、他方、合奏カンツォーナは通奏低音抜きで演奏してもかまわない、という違いが出てきます。
 バロック中期になると、カンツォーナとソナタの区別は無くなり、速さの異なる数個の楽章から構成された器楽曲をソナタと呼ぶようになりました。バロック時代のソナタには教会ソナタ室内ソナタの区別があります。

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カンツォーナ canzona

 元来はイタリアの古い詩形式と、それに作曲した多声的な世俗曲をカンツォーナと呼びました。16世紀から17世紀にかけては、フランスの多声的なシャンソンをモデルにした器楽曲がカンツォーナと呼ばれるようになります。ポリフォニーとホモフォニーという対照的な短い楽節をいくつも交代して並べた構成になるものが多く、後に教会ソナタへと発展していくことになります。

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リチェルカーレ ricercare

 はじめは、特定の形式を持たない器楽(特に鍵盤楽器による器楽)の名称として用いられ、様々な形式の音楽がこの名称で呼ばれましたが、次第に自由に案出さえれた主題に基づく模倣(ある旋律、あるいは音型を、他の声部で真似て再現すること)的な作品をリチェルカーレと呼ぶようになりました。
 声楽の
モテトゥスを真似て生まれたとも言われるように、ひとつの旋律が各パートに模倣されていき、一段落つくとさらに異なった旋律があらわれて各パートに模倣されていくという構成を取っています。後にフーガに発展する形式として音楽史的には重要な意味を持っています。

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トッカータ toccata

 鍵盤楽器の特性を生かした、即興的で技巧的な音楽形式を言います。ルネサンス後期からバロック期のトッカータは、即興的な和音からなる部分と、フーガ風の部分とが交互にあらわれる構成を取ります。分厚い和音や自在なテンポなどが特徴的な楽曲です。

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ファンタジア fantasia

 自由で即興的な構成による楽曲に対して広く用いられた名称です。ルネサンス、バロック時代のファンタジアは、リチェルカーレカンツォーナと同様の器楽曲(主に鍵盤楽器用)でしたが、それらに比べると調性や和声の変化に富むものをファンタジアと呼んだようです。

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カプリッチョ capriccio

 18世紀後半からは、気まぐれな性格の器楽小品をカプリッチョと呼び、日本語では《奇想曲》の訳を当てていますが、ルネサンス後期からバロック時代にかけては、フーガ風の器楽曲をカプリッチョと呼んでいます。つまり、リチェルカーレカンツォーナと同様の器楽曲(主に鍵盤楽器用)ですが、それらよりも、もっと軽快な主題によるものを指して使われることが多いようです。

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教会ソナタ sonata da chiesa

 緩−急−緩−急の4楽章からなり、舞曲風の楽章を含まない、抽象的な楽章によって構成されるバロック時代の器楽形式を言います。17世紀以後半以降に興隆し、コレッリのトリオ・ソナタが規範とされています。
 教会で演奏される、あるいは教会風の雰囲気を持つ、真面目で重々しい印象の曲想であることが多いようです。

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室内ソナタ sonata da camera

 前奏曲と数曲の舞曲風な楽章で構成された、原則的には同一の調性で書かれたバロック時代の器楽形式、宮廷ソナタと呼ばれることもあり、教会ソナタと同様に17世紀以後半以降に興隆し、コレッリのトリオ・ソナタ集における、前奏曲のあとに2〜3曲の舞曲を連ねる形式が基本形とされています。
 もともと、宮廷で流行した舞曲から派生したもので、舞曲のリズムをつらねた、くつろいだ印象をもつ曲想を持っています。

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トリオ・ソナタ torio sonata

 バロック時代の最も重要な室内楽曲の形式。「3声部からなるソナタ」という意味で、通常、音域の類似した2つの旋律楽器と通奏低音のために作曲されていますが、通奏低音はチェンバロやオルガンなどの通奏楽器とチェロやヴィオラ・ダ・ガンバのような旋律楽器がともに担当するので、実際の演奏には4人の奏者を必要とする場合が一般的です。
 トリオ・ソナタには、教会ソナタ室内ソナタの2つの形式があります。

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合奏協奏曲 concerto grosso

 バロック時代の協奏曲の最も重要な1形態。コンチェルティーノ concertino と呼ばれる独奏楽器群(標準的には2つのヴァイオリンと通奏低音楽器の組み合わせ)と、リピエーノ ripieno またはトゥッティ tutti と呼ばれる全合奏との対比によって進められます。
 合奏協奏曲は
トリオ・ソナタと同様に、比較的ホモフォニックなゆっくりした楽章と、比較的ポリフォニックな速い楽章とが交互に演奏される教会コンチェルト concherto da chiesa to と、前奏曲に続いていくつかの舞曲を並べた舞曲組曲である室内コンチェルト concherto da camera の区別があります。

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ボローニャ楽派 bologna school

 17世紀後半から18世紀の初頭にかけて、北イタリアのボローニャで活躍した音楽家たちの総称。同地の聖ペトローニオ大聖堂を中心にヴァイオリンを中心とする合奏曲を多く作曲し、バロック時代のソナタやコンチェルトの発展に貢献しました。ボローニャでの器楽の隆盛には、当時ヴァイオリンの名器を次々と製造していたクレモナが近かったことも一因だったと思われます。
 1657年にマウリツィオ・カッツァーティ(1620?-1677)が聖ペトローニオ大聖堂の礼拝楽長になると、同聖堂の器楽奏者を増員て器楽の演奏を充実させたことからボローニャ楽派の形成が始まったと言われます。この楽派の作曲家ではジョバンニ・バッティスタ・ヴィターリ(1632-92)、ジョゼッペ・トレッリ(1658-1709)、ジョヴァンニ・パオロ・コロンナ(1637-95)らが有名です。

 ボローニャ楽派の音楽は、一般に派手な技巧だけが表面に出ることなく、形式的な安定感に支えられた叙情性のある音楽だと言われています。

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ソロ・コンチェルト solo concherto

 独奏協奏曲。1個の独奏楽器とオーケストラのためのコンチェルトで、バロック時代の終わりから古典派、ロマンはにかけて多く作曲されました(独奏楽器が2個の場合は二重協奏曲、3個の場合は三重協奏曲と呼ばれます)。

 緩−急−緩の3楽章構成からなり、両端の速いテンポの楽章ではリトルネッロ形式を用いているのが特徴で、ヴィヴァルディの協奏曲は、ソロ・コンチェルトのごく初期の実例です。

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フーガ fuga

 冒頭に提示された主題が、複数の声部の間で対位法(複数の旋律を、それぞれの独自性を保ちながら組み合わせる書法)的に模倣される音楽形式をいいます。あるひとつの声部に主題が与えられると、残りの各声部は一定の調性を保ちながら、次々にその主題を模倣、展開していきます。
 「遁走」意味を持つラテン語の fuga に由来する名称で、14世紀から文献などにあらわれてきますが、ルネサンス時代からバロック時代にかけて、
リチェルカーレカンツォーナファンタジアカプリッチョなど様々な名称のもとに同様な形式で作られていた音楽がこの名称で発展、完成されるは、バロック後期のJ.S.バッハ(1685〜1750)の出現を待たなくてはなりません。

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トゥッティ tutti

 演奏者が全員同時に演奏することで、「総奏」または「全合奏」と訳されます。合奏協奏曲で、独奏楽器群と対比的の用いられる合奏群で、リピエーノ ripieno とも呼ばれます。

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ソロ・ソナタ solo sonata

 独奏ソナタ。トリオ・ソナタより1声部少なく、旋律楽器(多くはヴァイオリン。フルートやヴィオラ・ダ・ガンバの場合もある)がひとつと、通奏低音の計2声部によるソナタです。通常、通奏低音はチェロまたはガンバとチェンバロまたはオルガンの2つの楽器によって奏されたため、演奏には3人を必要としました。バロック中期、1700年頃から人気が出てきたようで作品数が増えていきます。

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カデンツァ cadenza

 オペラのアリアやコンチェルトにおいて、曲や楽章を閉じる前に演奏される技巧的で即興的な部分を指します。
 本来は演奏者の即興に完全に任されていましたが、次第に作曲者や演奏者が譜例を残すようになり、それに従って演奏されることが多くなっていきました。ベートーベン以後は、作曲家自身がカデンツァも作品の一部として書くのが普通になり、即興で演奏されることは無くなっていきます。

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リトルネッロ ritornello

 リトルネッロは、イタリア語で「回帰」を意味するritornoから派生したことばで、もともとは声楽に使われていた用語でした。
 14世紀ののイタリアのマドリガーレやカッチャにおいて、主体を為すと考えられる詩節のあとに付け加えられる部分をリトルネッロと呼んでいましたが、17世紀になるとオペラやカンタータにおいて、歌の前奏、間奏、後奏として反復される器楽的な部分をリトルネッロと呼ぶようになります。
 器楽で使われるようになったのはバロック時代も中期あたりからで、
合奏協奏曲ソロ・コンチェルトにおける総奏(トゥッティ)の部分をリトルネッロとも呼ぶようになりました。これは、ひとつの楽章の中で総奏と独奏が交互に演奏される手法が用いられた時に、総奏が同一の素材に基づいていた事によります。なお、このような演奏形式そのものはリトルネッロ形式と呼ばれています。

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