島崎藤村

「若菜集」より


  
 母を葬るのうた


 
      うき雲はありともわかぬ大空の
            月のかげよりふるしぐれかな


 
きみがはかばに
 
      きゞくあり
 
きみがはかばに
 
      さかきあり
 

 
くさはにつゆは
 
      しげくして
 
おもからずやは
 
      そのしるし
 

 
いつかねむりを
 
      さめいでゝ
 
いつかへりこん
 
      わがはゝよ
 

 あから
紅羅ひく子も
 
      ますらをも
 
みなちりひぢと
 
      なるものを
 

 
あゝさめたまふ
 
      ことなかれ
 
あゝかへりくる
 
      ことなかれ
 

 
はるははなさき
 
      はなちりて
 
きみがはかばに
 
      かゝるとも
 

 
なつはみだるゝ
 
      ほたるびの
 
きみがはかばに
 
      とべるとも
 

 
あきはさみしき
 
      あきさめの
 
きみがはかばに
 
      そゝぐとも
 

 
ふゆはましろに
 
      ゆきじもの
 
きみがはかばに
 
      こほるとも
 

 
とほきねむりの
 
      ゆめまくら
 
おそるゝなかれ
 
      わがはゝよ



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