12 タブラトゥーラ
    (TABLATURA)


 1984年に、リュート奏者のつのだたかし氏を中心に結成された古楽器のアンサンブルが《タブラトゥーラ》です。結成当初は、ヨーロッパ中世・ルネサンスの舞曲を中心としたプログラムを中心に演奏活動を行っていたようですが、現在はメンバー自身のオリジナル曲を中心とした、時代も国も飛び越えた不思議な音楽の世界を聴かせてくれる、世界に類を見ない「古楽器バンド」として活動しています(まったく古楽の演奏会が無い、ということではありません)。

 自分たちのオリジナル曲を交えて演奏したり録音を作ったりする団体は、スペインのアトリウム・ムジケー古楽団などを筆頭に、昔から幾つも存在しています。けれど、タブラトゥーラくらい、それをわざとらしさを感じさせずに、楽しい音楽として演奏している楽団は少ないように思います。

 古楽器の生み出すどこか懐かしい響と躍動するリズム。そして、山下洋輔や吉田日出子、小川美潮などをゲストに向かえたりする、どちらかと言えばノンジャンルとも言えそうな音楽。それらは、いかにも村々をまわる旅芸人の即興演奏そのもののようで、録音からだけでも、演奏者が楽しんで演奏している様子がダイレクトに伝わって来るようです。

 タブラトゥーラは、1994年には、招聘されてカナダの《ケベック夏の国際フェスティバル》《ラノディエール国際ファスティヴァル》の2つの音楽祭に参加し、聴衆を熱狂させたといいます。また、96年1月には、国際交流基金の主催事業でエジプト、イタリア、オーストリア、スロヴェニアへの演奏旅行を行い、97年11月にも同基金の主催でインド、パキスタン、バングラディシュへのツアーを行い現地の音楽家と交流するなど、国際的にも活躍しています。

 音楽に直接関係ありませんが、主催者のつのだたかし氏は、漫画家のつのだじろう氏(代表作「うしろの百太郎」「恐怖新聞」など)や歌手のつのだ☆ひろ氏(代表作「メリー・ジェーン」など)とご兄弟だそうです。


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 タブラトゥーラのCDとしては、『タブラトゥーラ』vol.1〜5、ベスト・アルバム『タブラトゥーラ・コレクション』の計6枚が発売されていますが、現在コンスタントに入手できるのは『タブラトゥーラ V』と『タブラトゥーラ・コレクション』の2枚のCDのみです。残りは廃盤になっていて、店頭に在庫がある場合のみ入手可、という状況です。

 『タブラトゥーラ・コレクション』は、『タブラトゥーラ』vol.1〜4に収められていた曲から、メンバーの協議によって選ばれた、正真正銘のタブラトゥーラ・ベスト盤で、10年間の活動の総決算といえるディスクです。17曲、76分のCDですが、そのうち11曲がメンバーによるオリジナル曲で構成されています。13世紀スペインの「カンティガ」や16〜17世紀のイギリスやドイツの舞曲などを含む6曲の古楽によって、彼らの古楽演奏者としての力量が充分わかりますが、やはり面白いのはオリジナル曲でしょう。

 美しく透明感に満ちた「カレリア」、軽快なスピード感に満ちた「でれんでれん」、山下洋輔がダルシマー(!)を演奏している「青海亀の唄」、吉田日出子が朗読と唄を担当している「満月の夜」、エスニック音楽のような「砂の伝説」、小川美潮が歌う陽気でコミカルな「へべれけ」など、聴いていて本当に楽しくなって来ます。

 『タブラトゥーラ V』は、タブラトゥーラが自主制作に踏み切った最初のディスクです。『タブラトゥーラ・コレクション』の編集後に録音されたと思われるこの録音は、全12曲中、録音の真ん中に置かれた2曲を除くと、すべてがメンバーの作曲によるオリジナル曲で構成されています。ある意味、10年という節目を迎えた彼らの、新たな出発点としての気概が込められた録音だと言うことができるかもしれません。

 古楽である17世紀イギリスの「カントリーダンス」や16世紀スペインの「ビリャンシーコ」も、これまで以上にスピード感にあふれた軽快な演奏を聴かせてくれます。そして、1曲目の「ワルプルギスの夜」から耳をとらえて離さないオリジナル曲の数々は、古楽器の特性を充分に生かしつつ、新たな音楽の杜へと誘ってくれるようです。古楽と現代音楽とポピュラー音楽の絶妙なカクテル、といった趣がある録音だと思います。

 個人的には、「オード(頌歌)」の神秘的な静謐感と、「スプリングチューン」の口笛でも吹きたいような気楽な音が気に入っています。何度聴いても飽きの来ないディスクです。


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 実のところ、タブラトゥーラの音楽の本当の楽しさは、CDからでは充分に知ることはできません。この団体の真骨頂は、ライブ(コンサート、というよりライブと言う方がぴったり来ます)にこそあると思います。
 観客の体も心も巻き込んでしまう、あまりの楽しさに時のたつのも忘れてしまうステージの面白さは、ちょっと言葉では表すことが出来ないくらい、とにかく感動的です。

 機会があれば、ぜひ一度はコンサートに行って、サーヴィス精神にあふれたステージ・パフォーマンスの数々を実際に見ていただければと思います。かといって、パフォーマンスに頼った手抜きの音楽では決してありません。他作自作を問わず真摯に演奏し、且つ真剣に遊びまくる、そして繊細な音づくりの中に、何とも言えないスピード感を秘めています。

 現代の日本に生まれた《ジョングルール》、それが彼らタブラトゥーラなのではないでしょうか。

(1999/01/17)


タブラトゥーラ TABLATURA
 タブラトゥーラ・コレクション TABLATURA COLLECTION 
  [ゲスト]吉田日出子・小川美潮・山下洋輔・波多野睦美
  1995年発売 KITTY(ポリグラム) [KTCR 1341]
 タブラトゥーラ V TABLATURA V
  1995年録音 ダウランド&カンパニイ [TAB 005]

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