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8 「サリー・ガーデン」 波多野睦美/つのだたかし ("Down by the Sally garden's" Mutsumi Hatano/Takashi Tsunoda ) 「サリー・ガーデン」は、イギリスに古くから伝わる、作者不詳の“恋の歌”を集めたCDです。アルバムタイトルの『サリー・ガーデン』をはじめ、『ボニー・ボーイ』や『グリーンスリーヴス』『スカボロー・フェアー』など、一度は耳にしたことがあるような有名な曲から、日本人にはあまり馴染みのない曲も含めて、全部で19曲のフォークソング収められています。 ソプラノの波多野睦美さんは、宮崎大学卒業後、ロンドンのトリニティ音楽大学専攻科修了し、90年からリュート奏者のつのだたかし氏とデュオを組んでコンサート活動行っています。また、バロックオペラの分野でも注目を浴びているようです。ノン・ビブラートの、どちらかというとメゾ・ソプラノのふっくらとした柔らかさの中に、透明な艶やかさのある声の持ち主です。 リュートのつのだたかし氏は、ドイツのケルン音楽大学リュート科卒業後、ルネサンス、バロックリュートのソロプログラムの他、ダウランドやモンテヴェルディの声楽曲のアンサンブルに力を注いでいます。84年に古楽器アンサンブル《タブラトゥーラ》を結成し、古楽にとどまらないユニークな演奏活動を行っています。ほかに主に宗教音楽の演奏活動を行っている《アンサンブル・エクレジア》(波多野さんもメンバーのひとり)も主宰するなど、多数の古楽に関する活動、プロデュース等を手がけています。 この波多野睦美さんとつのだたかし氏のデュオによるCDは、「サリー・ガーデン」の他にダウランド歌曲集「悲しみよ、とどまれ」と、14世紀のマショーから17世紀のモンティベルディまでの400年にわたる歌のアンソロジーである「古歌」があります。 実は、2年前にこのCDを見つけたとき、演奏者の波多野睦美さんのことも、つのだたかし氏のことも、私はまったく知りませんでした。オムニバスレコードは、よっぽど好きな演奏家のものか、よほど珍しい曲でも入っていな限りは購入しない私が、なぜこのCDを買ったかというと、実は、CDジャケットのデザインがあまりにステキだったためです(問題のジャケットはここを見て下さい)。 まあ、それぐらい、望月通陽氏の染絵のインパクトが強かったわけですが、CDを聴いてみて、録音されている音楽がまたジャケットにふさわしくというか、それ以上にというか、とにかくどれも美しいのでまたビックリしてしまいました。 無理のない発声の、柔らかで優しい、しっとりした人肌の温かみのある波多野さんの声と、つのだ氏の爪弾く、繊細で、どこか懐かしい、心優しいリュートの調べがぴったりと合わさって、絶妙なアンサンブルを聴かせてくれます。 失った恋人を思う『ボニー・ボーイ』や『サリー・ガーデン』のメランコリックな流麗さ、美しい恋人を思う『恋人の黒髪』の優雅さ、仕立屋がハシボソガラスを矢で射ろうとして豚を射てしまう『はしぼそがらす』のコミカルな軽妙さ等々、どれもこれも、昔どこかで聴いたような慕わしさを感じさせられます。それでいて、驚くほどの新鮮な響きも持っていて、ひとつの小宇宙を形づくっているようです。そして、細心の注意を払われた自然さ、といったら良いのでしょうか。さりげなさと細やかさの相まった、色硝子の器にも似た風情が、音の端々から感じられます。 多分、歌の中にある様々な思いを、これほど自由に、聴いている者に楽々と感じさせることができるということは、厳しいまでの努力に裏打ちされた技術のたまものでしょう。けれど、出来上がった音楽には、そんな努力の痕跡を、全くと言って良いほど感じさせません。 仕事で疲れて帰ったときは、必ずと言っていいほどこのCDをかけます。おだやかに、しっとりと心の中にしみわたってくる歌とリュートの音は、まるで澄み切った清流のようで、いつのまにか、疲れきってカラカラに乾いた心を潤してくれます。 何度でも繰り返して聴きたくなる、聴いていて飽きることのない、幸福な録音のひとつです。 (1998/8/9)
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