4 プロ・カンティオーネ・アンティクァ
   (PRO CANTIONE ANTIQUA, London)

 私が、生まれてはじめて聴いた古楽は、プロ・カンティオーネ・アンティクァの演奏による、ジョスカン・デ・プレ作曲の、『ミサ《ロム・アルメ・スーペル・ヴォーチェス・ムジカーレス》』でした。高校1年の夏休みに、NHKのFM放送で流されたものを、本当に偶然に耳にしたのです。その時の衝撃は、いまだに忘れられません。

 最初のキリエで、"Kyrie eleison,Christe eleison,Kyrie eleison." という、ただそれだけの言葉が繰り返されるだけなのに、聴いているうちに自分の回りのものが、そして自分自身がどんどん透明になっていくような気がしました。

 音がまるで波のように何度も何度もうち寄せてきては、少しずつ自分の中の角張った部分を削っていき、調和のとれた球形に整えられているような不思議な感覚。そして、身体は地上にありながら、どこか高みに登っているかのような浮遊感。ひどく静かで、それでいて熱くて、時おり聞こえる不協和音に背筋を泡立たせながら、それでも、自分は何か特別なものを聴いているのだ、という確信がありました。

 聴いている間はただ幸福で、終わったときには少し涙ぐんでいた覚えがあります。

 その後、キングス・シンガーズ、タリス・スコラーズ、ヒリヤード・アンサンブル、タヴァナー・コンソートというように、様々な古楽合唱団による、様々な古楽を聴きました。
 どの団体もそれぞれに個性的で素晴らしい音楽を作り出しており、テクニックの点で言えば、プロ・カンティオーネ・アンティクァよりも、ずっと上だと思われます。一番のお気に入りはと言われれば、曲によって違うけれど、としか言い様はありません。

 それでも、私の中でプロ・カンティオーネ・アンティクァは、常に特別な位置を占める合唱団となっています。


◇ ◇ ◇


 プロ・カンティオーネ・アンティクァは、1968年にテノールのジェイムズ・グリフェット、カウンテー・テナーのポール・エスウッド、バスのマーク・ブラウンの3人によって組織されました。その後メンバーを増すと同時に音楽学者であるブルーノ・ターナーを指揮者として迎えて現在に至っています。

 最近の録音では、ブルーノ・ターナーは音楽顧問とし参加し、実際の指揮はマーク・ブラウンが担当しているようです。

 中世・ルネサンス期からバロック前期(モンティベルディやパーセルなど)までの広い範囲をレパートリーとする、30年という長きにわたって活動を続けてきた、古楽アンサンブルの中でも最も歴史の古い、老舗の団体のひとつです。
 彼らは、メンバーを固定せず、曲によってその編成を変えています。つまり、演奏する曲に最もふさわしい演奏形態を想定し、その上でメンバーを選ぶという形態をとっているということになります。

 それでいて、どの録音を聴いても、プロ・カンティオーネ・アンティクァは、常にプロ・カンティオーネ・アンティクァの音を保って変わることがありません。


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 プロ・カンティオーネ・アンティクァの演奏による録音には、好きなものが沢山あるのですが、どことなく『レクイエム』に心引かれるものが多いような気がします。

 決して派手な演奏ではありません。タリス・スコラーズやヒリヤード・アサンブルに比べれば、むしろ地味な印象を与えます。だからこそ、端正で、どことなく優しい温もりを持ったその演奏は、死者を悼むという曲にふさわしいのかもしれません。真摯という言葉がこれほど似合うアンサンブルを、私は他に知りません。

 例えばラッススのレクイエムを聴いていると、音に包まれ、洗われ、いつしか曲の中に埋没していきます。聴く者と対立するのではなく、聴く者を慰撫し、暖かく包み込んでいく演奏だと思います。しっとりとした優しい手触りに包まれる幸福感を、なんと言葉に表せば良いのでしょうか。

 記憶の奥底に沈む、優しい温もりを思い出させてくれる。それがプロ・カンティオーネ・アンティクァの演奏だと思います。

(1998/5/24)


プロ・カンティオーネ・アンティクァ
PRO CANTIONE ANTIQUA, London
Josquin Des Prez
ミサ《ロム・アルメ》
MISSA"L'HOMME ARME"

 1976年録音 ARCHIV(ポリグラム) [F35A-50066] 廃盤)
Orlande De Lassus
5声のレクイエム
 REQUIEM A 5

 1971年録音 Deutsche Harmonia Mundi(BMG) [BVCD-1603]

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