3 「オフィチウム」 ヒリヤード・アンサンブル/ヤン・ガルバレク
   ( “Officium”  The Hilliard Ensemble/Jan Garbarek)


鳥は魚を餌にする。その排泄物はオアシスの源となり、そこで人間は生きることができる―――次の溶岩流がすべてを窒息させるまで。

(解説冒頭より抜粋)


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 「オフィチウム(Officium)」は、古楽合唱団であるヒリヤード・アンサンブルと、ジャズ・サックス奏者のヤン・ガルバレクとのコラボレーションCDです。まあ、異種交配というか、企画物というか、悪く言えば色物なのでしょうが、購入して以来、何度聴いても飽きることのないCDのひとつです。


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 私は、普段なら、めったにこういうCDは購入しません。古楽なら古楽、ジャズならジャズで聴きたいと思っていますし、こういう企画物は、過去に聴いて後悔しなかった物の方が少ないのです。

 実のところ、このCDを購入するまで一ヶ月近く悩みました。なにせ、それぞれの奏者の独自のCDならば、無条件に購入してしまう顔ぶれだったものですから。
 毎週末、CD屋の棚の前で30分くらいジャケットとにらめっこをしたり、手に取ってみてはまた棚に返す、ということを繰り返して5回目でやっと買ったという有様でした。

今から思えば笑い話ですが。


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 ヒリヤード・アンサンブルは、1974年に結成されたイギリスの男性だけの声楽グループです。国内盤の多くは廃盤になってしまいましたが、様々な古楽を録音をしており、古楽の声楽グループとしては誰が上げても五指の中に必ず入るだろう、すばらしい演奏をする団体です。
 1990年にリーダー格だったポール・ヒリアーは脱退してからは、ジェイムズ(CT)、カーヴィ=クランプ、ポーター(T)、ジョウンズ(Br)らによる(それまでは、曲によって様々な編成や人数で録音をしていました)男性四重合唱団として活動しています。

 ヤン・ガルバレクは、1947年生まれのノルウェー出身のジャズ・サックス奏者です。キース・ジャレットの『My Song』に参加していたサックス奏者と言えば、思い出される方も多いかもしれません。
 透き通るようなサックスの音を聞かせてくれます。彼は、自身のグループやトリオでのジャズの他、様々なジャンルの音楽家とのボーダーレスな活動でも知られているようです。


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 さて、「オフィチウム」には、全部で15曲が収められていますが、そのうち聖歌(グレゴリオ聖歌とソールズベリー聖歌)が3曲、ペロティヌスが1曲、作者不詳の14〜15世紀のポリフォニー音楽が6曲、ルネサンス期の音楽(デュファイ、ド・ラリュー、モラーレス)が5曲という構成になっています。

 ヒリアード・アンサンブルの歌唱に対して、ガルバレクのサックスが時には最低音を支えるように、時には装飾的な最上声部のように、また、曲によってはフリージャズそのもの様相で絡んで行きます。
 そして、ヒリアード・アンサンブルの歌唱もまた、普通の古楽演奏の枠をはみ出して、もっと自由な装飾を行ったり、単旋律曲を多声曲風に歌ったりしています。

 どの曲も、不完全ではあったとしても、きちんとテキストが存在するのですが、半ば即興的に新たな音を加えられ、その曲を聴く私たちに、新たな存在感を訴え掛けて来ます。二つの、本来ならまったくかみ合わないと思われる要素である古楽とフリー・ジャズが、時には絡み合い、時には反発しあいながら、崇高で清らかな、伝統を越えた新たな「音楽」を作り出しているのです。

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 もしかしたら、古楽を全く聴いたことのない人の方が、この新たに創造された音の世界の美しさを、充分に感じ取れるのかもしれません。
 静かな熱気をはらんだその演奏は、あくまでも美しく、軽々と舞い上がるような音の連なりを作っていきます。

 音楽史の立場から言えば、これは異端の一枚です。決して正しい『古楽』の再現とは言えません。けれど、そんなものを度外視した所に、このCDの存在価値はあるように思われます。


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 このCDは、本来どこに分類されるのでしょうか。音楽史でしょうかジャズでしょうか。ただ、どんな分類をするにしても、美しい音楽であるということは、誰にも否定できない事実だと思います。

 本当の意味での『癒し』の音楽とは、こういうものを言うのかもしれない、と聴く度に思わされる1枚です。

 
(1998/5/17)


オフィチウム Officium
 ヒリヤード・アンサンブル/ヤン・ガルバレク
 The Hilliard Ensemble/Jan Garbarek
  1994年録音 ECM NEW SERIES(ポリドール) [POCC- 2022]


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