Cover Illustration―――表紙の絵について(3)―――  
 
ハンス・メムリンク 《奏楽天使》
ハンス・メムリンク
(1435?−1494)
Hans Memlinc

『奏楽天使』(左パネル)
1480年頃制作
Angel Musicians (left panel)



15世紀から16世紀のルネサンス期ネーデルラント(ベルギー、オランダ)、フランス、イギリス、ドイツなどの美術を、アルプスより北の地域と言う意味で、美術史では一般に『北方ルネサンス』と呼んでいます。

アルプス以北の地域がイタリアのルネサンス美術の影響を受けるのは、15世紀末頃からの事ですから、北方ルネサンスの前半はゴシック後期の美術様式に分類されるものかもしれません。けれど、そこにはすでに、ゴシック期には見られなかった写実性や細密描写への試みが見られ、イタリアとは異なった特色ある美術が展開されていました。

メムリンクは、そんな北方ルネサンス美術の最後を飾る画家のひとりです。彼はドイツで生まれましたが、生涯のほとんどをフランドルのブリュージュですごしました。後期の北方ルネサンスの画家の中では、とくに革新的な活動をしたわけではありませんが、熟練した腕前でもって、左右対称の均衡のとれた構図による、優美で甘美な静けさを特徴とした、繊細な宗教画や肖像画を描いています。

表紙に掲げた「奏楽天使」は、現在、ベルギーのブリュッセルにある王立美術館に収められていますが、もともとは、スペインのナヘラ地方にある、サンタ・マリア・ラ・レアル教会の大オルガンを装飾していた三連作の中の一枚で、左側に配置されていたものです。

一見すると、新約聖書の「Majestas Domini(栄光の王)」(黙示録、第4章第1節〜第11節)、または同じ黙示録の「見よ、その方が雲にのって現れる」(第1章第7節)などから発想をを得たように思われますが、むしろ、メムリンクはそれらのテーマを借りて、この時代の楽器を描きたかったのではないでしょうか。

天使達は左からプサルテリウム psaltery、トロンバ・マリーナ tromba marina、リュート lute、トランペット trumpet、オーボエ oboe を手にして合奏をしています。イエス・キリストに近いほど高位の音楽を表すと思われますから、神へ捧げる音楽は声楽>器楽、楽器は管楽器>弦楽器の順になると当時は考えられていたようです。

ちなみに、プサルテリウムは14〜15世紀に愛用されたツィターに似た楽器で、机や膝の上に置くか、ひもで首からつるして指やピックなどで弦を弾いて演奏しました。また、トロンバ・マリーナは、中世から使われた弓で演奏する弦楽器のひとつで、3面の細長い共鳴胴に普通は一本の長いガット弦が張られていて、弓で擦るとラッパの強音に似た音が出る楽器のようです。

(2003/03/16)

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