バッハの室内楽〜アレンジメントによるトリオ・ソナタ

2000年10月30日(月)19:00
札幌コンサートホール《Kitara》小ホール

    平尾 雅子 ヴィオラ・ダ・ガンバ
    武久 源造 チェンバロ
    桐山 建志 ヴァイオリン&ヴィオラ
    能登 伊津子 オルガン


 

ヨハン・セバスチャン・バッハ
Johann Sebastian Bach

 ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第1番ト長調 BWV1027
 Sonate fur Viola da gamba und cembalo Nr.1 BWV1027
 〈ヴァイオリン,ヴィオラ・ダ・ガンバ,オルガンによる編成〉

 ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第3番ト短調 BWV1029
 Sonate fur Viola da gamba und cembalo Nr.3 BWV1029
 〈ヴィオラ・ダ・ガンバ,オルガン,チェンバロによる編成〉

 ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第2番ニ長調 BWV1028
 Sonate fur Viola da gamba und cembalo Nr.2 BWV1028
 〈ヴィオラ,ヴァイオリン,ヴィオラ・ダ・ガンバ,チェンバロによる編成〉


  ―――――休憩15分―――――


 シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調 BWV1004より)
 Partita fur Violine Solo Nr.2 BWV1004〜Chaconne
 〈チェンバロ独奏〉

 オルガンのためのソナタ第2番ト短調(原曲 ハ短調)BWV526
 Sonate fur Orgel Nr.2 BWV526
 〈ヴィオラ,ヴィオラ・ダ・ガンバ,チェンバロ,オルガン〉



10月30日、kitaraの小ホールでバッハの室内楽のコンサートがありました。演奏されたの「ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ」全3曲に「オルガンのためのソナタ」1曲、「シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ2番より)」の計5曲です。ところで、今回のコンサートは副題にある通り『アレンジメント』つまり編曲によるもので、バッハが2つ又はひとつの楽器のために書いたトリオ・ソナタを本来のトリオ・ソナタに近い形式で演奏してみよう、という試みでした。

トリオ・ソナタというのは、そもそも3声で書かれたソナタのことで、旋律を担当する2つの楽器がそれぞれ1声ずつの計2声、伴奏を担当する通奏低音が1声という形式になっています。けれど、通奏低音は伴奏の主旋律を奏でる低音楽器(チェロやガンバ、オーボエなど)と、和音を奏でられる楽器(主としてチェンバロやオルガンなどの鍵盤楽器)という組み合わせが一般的なので、トリオ・ソナタを演奏するには最低4人が必要だということになります。

バロック時代は、独奏楽器1と通奏低音による2声のソナタ(2〜3人で演奏)をソロ・ソナタ、独奏楽器のみの1声のソナタ(ひとりで演奏)を無伴奏ソナタと呼んでトリオ・ソナタとは区別していたわけですが、バッハの曲にはどういうわけで2人で演奏するトリオ・ソナタやひとりで演奏するトリオ・ソナタという一風変わった曲があって、今回演奏された「ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ」も「オルガンのためのソナタ」もそういう形式のトリオ・ソナタなので、今回のような試みも可能であったわけです。

さて、演奏の方ですが、原曲の指定よりも楽器が多い分、全般的に華やかだったり重厚だったりというように、原曲とはずいぶん異なった印象になっていました。BWV1027はチェンバロの右手の代わりにヴァイオリンが加わった事で、とても明るい印象の曲になりましたし、それによって2つの主旋律も明確になっていたように思います。チェンバロではなくて小型のポルタティーフ・オルガンが通奏低音を奏でていたのも、なおさら違いを感じさせた原因かと思います。華やかな主旋律にやわらかくまといつくオルガンの和音は、ちょっと危ういようなアンバランスさも感じられて不思議な感じがする1曲になっていました。

2曲目に演奏されたBWV1029は通常編成にオルガンが加わったものですが、1、3楽章は元々のチェンバロのパートをオルガンが演奏し、チェンバロは新たな伴奏をつけるような形にアレンジされていました。おかげで、ソナタと言うよりコンチェルトのような雰囲気が出ていたように思います。BWV1028はヴィオラの艶やかさが印象的でした。チェンバロの通常は存在しない即興部分も面白かったです。

それでも、前半の演奏で私が一番印象深く聴いたのは、実のところ原曲の指定通りに演奏されたBWV1027の第2楽章だったりします。聴き慣れた演奏形態だったせいもあるかもしれませんが、平尾さんのガンバと武久さんのチェンバロの息の合った、なおかつ緊張感のある演奏がとても素晴らしかったのです。同時に、余分な装飾を切りつめた原曲のストイックさが前後の楽章との比較から浮かび上がって来るようで、改めてバッハの偉大さを感じた次第です。

後半1曲目の武久さんによるバッハの「シャコンヌ」は、武久さん自身による編曲のようでした。「シャコンヌ」はピアノ編曲版は聴いたことがあるのですが、チェンバロでというのは初めてのような気がしました。まずなにより、武久さんの演奏の巧みさに圧倒されました。所々に即興も交えつつ、バッハのこんな風に自曲をアレンジして弾いたかもしれないなと思わせるような、入魂の演奏だったと思います。この演奏では最近の演奏会には珍しく、最後の1音の余韻までも聴き取った上で拍手が起こったのも、とても嬉しく感じました。

最後に演奏された「オルガン・ソナタ第2番」は、ヴィオラとガンバという低音楽器でのアンサンブルを行うために、原曲を4度下げて編曲されていました。平尾さん自身がプログラムに書かれていますが、確かに今回のアレンジメントでは中音域が厚くなったせいか「ブランデンブルグ協奏曲第6番」と似た響きがしていたようです。なんにしても、チェンバロとオルガンという和音楽器が2つも組合わさっての通奏低音部のおかげもあって、原曲の抑制された響きとは全く異なった、色彩的で親しみやすい、暖かみに満ちた音楽になっていたと思います。これは、アンコールで演奏された「オルガンのためのトリオ・ソナタ第3番 BWV527〜第2楽章」でも同様な感想を持ちました。

ところで、今回のコンサートはKitaraのバッハ没後250年企画の一環として、レクチャーコンサートとして行われたものです。前半の最初に平尾さんによる今日の楽曲の説明があり、3曲目の前にもガンバ族とヴァイオリン族の楽器の違いや、バロック・バイオリンとモダン・バイオリンの違いについて、実物を示しながら説明がありました。後半の最初には、武久さんによるバッハが指揮や編曲を行っていたライプツィヒの学生によるのコレギウム・ムジクスについての説明などがありました。

私はどちらかというとコンサートでは音楽に集中したい方なので、レクチャーなどがあると余分に感じてしまう事が多いのですが、今回のお二人のレクチャーはとても面白く聴かせていただきました。前日は釧路で、同じプログラムで演奏会をなさったそうですが、使用するチェンバロやオルガンの音色や会場の音響によって、かなり編曲を変えなければならないというお話もあり、素晴らしいアンサンブルが聴けただけに、苦労が忍ばれたコンサートでもありました。

それから、コンサートを聴きに行く前は平尾さんのガンバと武久さんのチェンバロを聴くことだけが目的だったのですが、終わってみればヴァイオリンとヴィオラを弾いた桐山さんとオルガンの能登さんのファンにもなってしまいました。古楽界も若い才能が次々と出てきているようで、将来がとても楽しみです。


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