ミッシャ・マイスキー
チェロ・リサイタル PLAYS BACH

2000年1月26日(水)18:30
札幌コンサートホール《Kitara》大ホール

    ミッシャ・マイスキー Mischa Maisky [Cello]
 
 
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲
J.S.BACH: Suites
第1番ト長調 BWV.1007□□□
1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.メヌエットI & II
6.ジーグ
No.1 in G major BWV.1007
1.Prelude
2.Allemande
3.Courante
4.Sarabande
5.Menuet I & II
6.Gigue
第3番ハ長調 BWV.1009
1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.ブーレI & II
6.ジーグ
No.3 in C major BWV.1009
1.Prelude
2.Allemande
3.Courante
4.Sarabande
5.Bourree I & II
6.Gigue
―――(休憩 20分)―――
第5番ハ短調 BWV.1011
1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.ガヴォットI & II
6.ジーグ
No.5 in C minor BWV.1011
1.Prelude
2.Allemande
3.Courante
4.Sarabande
5.Gavotte I & II
6.Gigue



今回のミッシャ・マイスキーの無伴奏チェロ組曲のみ、というプログラムのチェロ・リサイタルは、いつもより30分も公演の開始時間で早かったので、かなりギリギリにKitaraに滑り込みました。2階の両脇にあるバルコニー席に若干空席はあったものの、ほぼ完売に近い状態で客席は埋まっていました。

ミッシャ・マイスキーは、1948年にラトヴィアのリガに生まれ、1966年にチャイコフスキー国際コンクールに入賞後、モスクワ高等音楽院でムスティスラフ・ロストロポーヴィチに師事し、旧ソ連においてコンサート活動をスタートしました。けれど、姉のイスラエル亡命後に半ば見せしめ的に投獄されるという経験を経て、1973年にイスラエルに移住し、1974年には伝説的なチェリストであるグレゴール・ピアティゴルスキーに師事し、ふたりの偉大な演奏家に師事した唯一のチェリストとなりました。現在ではベルギーに居を構えており、活発な演奏活動とともに、Grammophonレーベルから多くの録音を出しています。

札幌でのプログラムは、バッハの無伴奏チョロ組曲から第1番、第3番、第5番の3曲が演奏されました。マイスキーが初めてバッハの組曲の録音をしてから15年たって、2回目の組曲の録音が出てすぐの演奏会でしたから、実際の演奏は録音とどれぐらい同じで、どれくらい違うものだろうかと思いながら聴き始めました。

当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、楽譜無し(!)で演奏が始められた第1番は、録音でも感じたことですが、15年前の演奏よりもずっと引き締まったように感じられました。同時に、緊張と弛緩の振幅が大きくなっていて、テンポも楽譜の表記よりも自由に変化させていたように思います。楽譜通りの忠実な反復の中で、装飾音も大胆に付加されており、後半はきわめてロマンチックな演奏だったと思います。それでも、新盤の録音よりはすっきりとした印象が強く残りました。

2曲目の第3番は、緩急の起伏に富んだ壮大な仕上がりになっていました。サラバンドの陶酔感とジークの優雅さが特に印象的で、全体に非常に瞑想的で耽美的な演奏でありながら、自由で伸びやかな闊達ささえ感じさせる、優雅で力強いバッハでした。

休憩後の第5番は、特に集中力の高さを感じさせ、美しい音色で豊かに歌われていました。プレリュードから、深く静かに瞑想する雰囲気でしたが、録音ほどには沈鬱なイメージは感じられませんでした。ただ、あまりにも歌いすぎていたために、後で思い返すと組曲の根底に存在する対位法の骨格が、やや不鮮明であったかもしれません。これど、演奏を聴いている間は全く気にならないほどに説得力のある演奏でした。

マイスキーの演奏は、よく「マイスキー流」とか「マイスキー節」などと表されるほどに一種独特のものですが、今回のリサイタルでも多少のテンポの違いなどはものともせず、彼のバッハに対する情熱でもって聴かせてしまう力量は、まさに非凡という言葉がぴったりだと思います。現在、大きな潮流となりつつある古楽的なアプローチとは対局に位置する演奏ですが、確かにそれも彼の言葉どおり「現代を生きるバッハ」であり、マイスキーがバッハの描いた深遠さに迫ろうとしていることを強く感じさせられました。

プログラムが終わった後、鳴りやまない拍手の中で組曲第6番のサラバンド、同ガボットI &II、組曲第2番のプレリュードが演奏されましたがこれも感動的な演奏で、特にサラバンドの一種悲歌めいた演奏は心を打たれるものがありました。

この日は演奏が終わった後で、CD購入者を対象にサイン会があったのですが、あれほど人が並んでいるのを見たのは初めてでした。私はCDを購入しませんでしたし、急ぎの用事もあったので帰りましたが、なんだかんだで、200名近い人たちがサインを求めて並んでいたのではないでしょうか。それほどに感動的な演奏会だったと言うことが出来ると思います。

ただ、雪の降る中を家路に急ぎながら、無伴奏チェロ組曲の舞曲としての様式をもう少し尊重した演奏がマイスキーによってされていたとしたら、もっとこの曲の魅力が引き出されたのではないだろうか、という気がしたのも事実です。最後は好みの問題ですが、出来れば、いつか舞曲的なマイスキーの組曲を聴いてみたい。そんなことを思う今日この頃です。

(2000.2.27)


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