タリス・スコラーズ / イタリアとドイツの音楽

1999年6月25日(金)19:00
札幌コンサートホール《Kitara》大ホール

    指揮:ピーター・フィリップス Peter Phillips
    合唱:タリス・スコラーズ The Tallis Scholars
     ソプラノSoprano
      デボラ・ロバーツ Deborah Roberts
      テッサ・ボナー Tessa Bonner
      ジャネット・コックスウェル Janet Coxwell
      サリー・ダンクリー Sally Dunkley
     アルト Alto
      キャロライン・トレバー Caroline Trevor
      パトリック・クライグ Patrick Craig
     テノール Tenor
      スティーヴン・ハロルド Steven Harrold
      フィリップ・ケイヴ Philip Cave
     バス Bass
      ドナルド・グレイグ Donald Greig
      フランシス・スティール Francis Steele
 

 ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ
 Giovanni Peierluigi da Palestrina
(c.1525-1594)
  ミサ・ウト・レ・ミ  Missa Ut re mi

 グレゴリオ・アレグリ Gregorio Allegri (1582-1652)
  ミゼレーレ  Miserere

 ハインリッヒ・シュッツ Heinrich Schutz (1585-1672)
  神の救いの恵みが現われぬ SWV371  Er ist erschienen
  涙とともに種まく者は SWV378  Dei mit Tranen saen
  われは呼びかけたる声なり SWV383  Ich bin eine rufende Stimme
  死ぬ者は幸いなり SWV391  Selig sind die Toten

 H.プレトリウス H.Praetorius (1560-1629)
  第5旋法のマニフィカト(8声)  Magnificat V



今回初めて、タリス・スコラーズの演奏を実際に聴くことが出来ました。タリス・スコラーズは、訳すと「タリスを学び極める人々」という意味になりますが、1973年に指揮のピーター・フィリップスによって結成された合唱グループです。名前の由来になったタリスを初めとしたイギリス・ルネサンスの作曲家やジョスカン・デ・プレ、パレストリーナ、ラッスス、ビクトリアなどのルネサンス期のポリフォニーによる教会音楽を得意としています。

札幌でのコンサートは、前半がパレストリーナとアレグリ、後半がシュッツとプレトリウスというプログラムで、客の入りは7割といったところでそれほど多くはありませんでしたが、合唱団関係者が多かったようで、皆さんとても熱心に聴いていらっしゃいました。

今回はソプラノ4名、アルト2名(男女各1名)、テノール2名、バス2名の計10名による演奏でしたが、最初のパレストリーナのミサ曲からソプラノの切れの良さが非常に際立っていたと思います。特にソプラノの高音部を受け持つ2人の声が非常に美しくて印象的でした。ボーイ・ソプラノかと思うほどのハイトーンであるにもかかわらず、まろやかさが感じられる美しさで、お世辞でなく“天使の声”だったと思います。

出だしのパレストリーナは、まず手慣らしといった感じで、曲が進むにつれて声の艶が良くなっていくのを感じました。パレストリーナはタリス・スコラーズが大変得意としている作曲家のせいもあり、全般的に安定感のある合唱だったと思います。ソプラノの4人が2組にわかれて歌い交わすと頃などは、陶酔感さえ感じさせるほどの美しさでした。

ところで、この日の演奏の目玉は2曲目のアレグリの「ミゼレーレ」でした。この曲は、1994年のミケランジェロの「最後の審判」の修復を記念した行事の最後に、ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂で歌うことを許された彼らが演奏した曲のひとつでもあります。秘曲として楽譜が門外不出だったのに、14歳のモーツァルトがヴァチカンの礼拝堂で音楽を聴いた後に記憶だけで楽譜を再現した曲、と言えば思い当たる方もいらっしゃるでしょうか。ある意味、タリス・スコラーズを代表する曲と言っていいかと思います。5声の合唱と4声の合唱が交互に歌詞を歌い交わし、最後に9声の合唱になるように書かれているのですが、今回のコンサートでは演出面が非常に凝っていました。

舞台には6人しかいない状態で始まったので、いったいどうしたのだろうと思っていましたら、2節目は突然天井の方から歌声が降って来たのです。1階席の真ん中ぐらいにいたのですが、私も含めて、いったいどこから歌声が聞こえてくるのか、客席では遠慮がちに首を巡らせて2階・3階を見上げることになりました。

残りの4人はホールの3階の一番後ろから下に向かって歌っていました。その後交互に舞台と3階とで1節ずつ歌い交わし続けたので、本物のエコー効果を満喫できました。特に3階席の方で独唱部分を歌っていたデボラ・ロバーツの声が素晴らしくて、さながら天使の声が上から降ってくるような感じが味わえました。曲が終わって、指揮のピーター・フィリップスが振り返ると同時に満場の大拍手に包まれ、舞台と3階に向かってしばらく拍手が鳴り止まなかったくらいです。

休憩後、後半はこの団体には珍しいルネサンス後期からバロック初期のドイツの歌でしたが、全体的に、前半よりちょっとリラックスした雰囲気が漂っていたように感じました。ただ、シュッツもプレトリウスも合唱としては隙が無さすぎて、少し硬さを感じないでもありませんでした。この時代のドイツの宗教音楽だと、私はもっとおおらかな感じの合唱が好みなので、特にそう感じたのかもしれません。

それでも、生の演奏であるにも関わらず各声部がくっきりと聴こえて来くる演奏に、タリス・スコラーズならではの完成度の高さを感じました。シュッツやプレトリウスも整ってはいても冷たい無機質な感じはなくて、充分に抒情性を感じさせる演奏だったと思います。特にシュッツの『ガイストリッヒェ・コアムジーク(宗教合唱曲集)』から取られた4曲の中の「神の救いの恵みが現われぬ」の落ち着きをある滑らかな響きは、他の団体では聴けない完成度の高さを感じさせられました。

全曲終わった後のアンコールの拍手は、とても7割の入りとは思えないような力強いものでした。アンコール曲はロッテ(1667?-1740)作曲の「Crucitixus(十字架にかけられて)」が演奏されましたが、喜びに満ちた非常に美しい演奏でした。その後、客席の電灯がついてもアンコールの拍手が鳴りやまず、タリス・スコラーズの面々は2回もステージに出て来ることになりました。美しい音楽に包まれる幸福感に満ちていて、いつまでも音に浸っていという気分にさせられた充実した演奏会だったと思います。


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