トン・コープマン / オルガン・リサイタル

1999年6月9日(水)19:00
札幌コンサートホール《Kitara》大ホール

    トン・コープマン Ton Koopman
 

 ヨハン・セバスチャン・バッハ J.S.Bach (1685-1750)
トッカータとフーガ ニ短調 BWV.538
Toccata & Fuge d moll
おお、汝正しくて善なる神よ ハ短調 BWV.767
Partia diverse sopra, “O Gott, du frommer Gott” c moll
幻想曲とフーガ ハ短調 BWV.537
Fantasua &Fuge c moll
親愛なるイエスよ、われらここに イ長調 BWV.633&634
Liebster Jesu wir sund hier A Dur
幻世想曲 ト長調 BWV.572
Fantasia G Dur
フーガ ト長調 BWV.578
Fuge g moll
恵み深きイエスを迎えよ ト長調 BWV.768
Partita diverse sopra “Sei gegrusset, Jesu gutig” g moll
目覚めよ、と呼ぶ声あり 変ホ長調 BWV.768
Wachet auf, ruft uns die Stimme Es Dur
トッカータとフーガ ニ短調 BWV.565
Toccata & Fuge d moll


全般的に、Kitaraでのオルガンコンサートはほとんど満員の状態になるのですが、この日のコープマンのオール・バッハ・プログラムによるオルガンコンサートも、当日券は無しという盛況ぶりでした。

1944年にオランダで生まれたトン・コープマンは、オーセンティックな演奏を始めたグスタフ・レオンハルトのお弟子の中でも、最も世界的な評価を受けているハープシコード(チェンバロ)奏者、オルガン奏者、そして指揮者でもあります。と、言いつつも、演奏会前にホールでCDを販売していた販売員の人に、「音を聞いてから買うかどうか決めるよ」と、話しかけていた60歳代と思われる男の方がいらっしゃいましたので、古楽系の“有名”がどの程度のものか、よくわかるような気もしますが……。

コンサートは、「トッカータとフーガニ短調《ドーリア調》」から始まりました。早いパッセージの力強いこの曲で、コープマンは全身を揺するようにしてオルガンを弾着始めました。ペダル(足で踏みつける鍵盤)は踏むといより踏みつけるといった感じで、早々に踏みつぶされるのではないだろうか、と思わせられるようなすさまじい迫力でした。

コープマンの演奏は、他のオルガン演奏者と比べるとかなりテンポの速い演奏をします。だからと言って機械的なわけではなくて、何というか、音を紡ぎ出すことが楽しくてしようがないとでも言いたげな、エネルギーにあふれた演奏をします。年とともに初期の頃のような奔放さやがむしゃらな感じはなくなって来ましたが、それでも一般的な基準から言うとバリバリと弾いている感じがあるだろうなあ、と思いつつ2曲目のコラール・パルティータ「おお、汝正しくて善なる神よ」を聴きました。

若い頃ならこうは弾かなかったろうと思うような、清明な雰囲気を醸し出していました。全体に、昔に比べると丸くなった分、テンポの幅がかなり大きくなったような感じがしました。以下、「幻想曲とフーガ ハ短調」と「親愛なるイエスよ、われらここに」という、どちらかというと瞑想的な静けさを感じさせる曲が続いた後、前半最後の「幻想曲」で音の波が押し寄せてくるような迫力ある演奏を展開してから休憩となりました。

後半は、これでもか、というように有名曲の目白押しで、まず「フーガト長調(小フーガ)」は、小とは名ばかりのフルオルガンの曲ですが、足裁きのものすごさは前半以上のすさまじさでした。音の切れも良くて、kitaraのオルガンはこんないよい音がする楽器だったか、と変なところで感心してしまったくらいです。

後半2曲目のコラール・パルティータ「恵み深きイエスを迎えよ」も非常に歯切れの良い演奏でした。ストップの切り替えのめまぐるしさもなんのその、で力強さが全面に出ていたと思います。次のコラール前奏曲「目覚めよ、と呼ぶ声あり」の荘重さと力強さもかなりのものでした。

最後の「トッカータとフーガニ短調」は、以前に比べると装飾音の付け方が少なくなっているようにも感じましたが、それでも熱気を背負って弾く抜く力強さは相変わらずでした。強くたたみかけて来る音の洪水に溺れそうな錯覚さえ覚えました。最後、トッカータに戻ってきた所では、コープマンは折れよと言わんばかりの激しさでペダルを踏みつけて、弾く姿を見ているだけでもめまいがしそうな迫力を感じました。

アンコール1曲目のJ.S.バッハのオルゲルビュヒライン(オルガン小曲集)から「われ汝に呼ばわる、イエス・キリストよ BWV.639」は、一転してゆったりと静かに流れる、ほとんど叙情的といってもいいほどの演奏で、「トッカータとフーガ」との対比の妙が素晴らしかったです。アンコール2曲目はD.スカルラッティのト長調のソナタをオルガンで軽やかに演奏しました。これで終わりだと思っていましたら、3曲目としてブクステフーデの「フーガ Op.174」も演奏してくれました。

「フーガ」のソプラノ管を主とした天国的な音で締めくくられた演奏会は、エネルギッシュでエキサイティングな2時間でした。本当に、あっという間に終わってしまたような気がします。そして、「フーガ」を弾き終わったコープマンは、拍手に対して満面に笑みをたたえてお辞儀をした後、オルガンにチャーミングに投げキッスを贈って、疲れを知らないような軽い足取りで舞台を去っていきました。コープマンの熱気にあおられて、バッハがもの凄く身近に思えた楽しい演奏会でした。


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