ザ・ハープ・コンソート
 −灯火と北極星−ルカス・ルイス・デ・リバヤス(マドリード1677年刊)

1999年3月05日(金)19:00
札幌コンサートホール《Kitara》小ホール

    ザ・ハープ・コンソート THE HARP CONSORT
      スティーヴ・プレーヤー Steve Player [ダンス、ギター]
      クララ・サナブラス Clara Sanabras [ソプラノ、ギター]
      ヒル・パール Hille Perl [ヴィオラ・ダ・ガンバ、リローネ、ギター]
      トマス・イーレンフェルト Thomas Ihlefeldt [テオルボ、ギター]
      ミヒャエル・メツラー Michael Metzler [パーカッション]
      アンドルー・ローレンス=キング Andreew Lawrence-King [スパニッシュ・ハープ]
 
フアン・カバニージェス イタリアのコレンテ
 デスパシオ(ゆっくりと)/コン・アイレ(気取って)
  アプリーサ・イ・コン・アイレ(急いで、そして気取って)
 
ティエゴ・ピサドール
リバヤスに基づく即興
聖ヨハネの日の
イタリアのガリヤルダ:大公
 
ディエゴ・オルティス
ミランに基づく即興
オルティス
平易な歌のレセルカーダ
ロマンス:ムーアの王は
テノールのレセルカーダ
 
サンティアーゴ・デ・ムルシア  
リバヤスに基づく即興
サランベケ
カナーリオ
 
カベソン/エネストローサ
作者不詳(サラエボで発見)
リバヤス
リバヤスに基づく即興
ティエント第18番
おまえの名は小鳥
タランテーラ
パラデータ
 
(休憩)
 
リバヤスガイタ
 
リバヤスに基づく即興
リバヤス
パサカーリェ
エスパニョレータ/フォリーア/サカーラ/ガリヤルダ
 
フアン・アラニェスチャコーナ:チャコーナのタベが
 
リバヤス
アロンソ・ムダーラ
ムライスに基づく即興
馬上試合
ムーアの王は
スペインのフォリーア
 
作者不詳シンフォニア:薔薇の深紅


ローレンス=キングが主催する、ハープ・コンソートの演奏会に行って来ました。
独学で拾得したというバロック・ハープを駆使するローレンス・キングは、ソロとしての活動も活発ですが、エスペリオンXXやゴシック・ヴォイシズ、ヒリヤード・アンサンブル、アンドルー・パロット、ウィルアム・クリスティらと共演を重ねています。また、1988年に結成した通奏低音アンサンブル「トラジコメディア」を1994年に脱退後、ハープ・コンソートを結成して指揮者としての活動も行っています。

今回の公演は、ハープ・コンソートの最初の録音である「ルス・イ・ノルテ〜灯火と北極星〜」に録音された曲を中心としたプログラムでした。
「ルス・イ・ノルテ Lus y Norte 」は、ルスカ・ルイス・デ・リバヤス(冒険家、アマチュア音楽家)が1677年にマドリードで出版したスパニッシュ・ギターとハープのタブラチュア譜を含む音楽書です。スペイン、イタリア、南米、アフリカの舞曲を集めた曲集で、CDの解説によれば17世紀スペインのダンス・バンドの標準的なレパートリーが納められた本だということです。

みぞれ混じりの、どちらかというと荒れた天候だったので、Kitaraの小ホールといえども空席が多いのではないかと思って行きましたが、ほぼ満席の状態でした。

前方中心にパーカッション。向かって右側にハープとテオルボ(リュート属の楽器)、左手にヴィオラ・ダ・ガンバ、後ろにバロック・ギター2人の計6人で、最初のイタリアのコレンテ(クーラント:フランス起源の舞曲。2分の3拍子、もしくは4分の6拍子の急速な舞曲)3曲は、まじめにしっとりと演奏していたのですが、その後の2グループ目の曲からは次第に様相が変わっていきました。

ピサドールの「聖ヨハネの日」を、後ろでギターを弾いていたクララ・サナブラスがしっとりと歌い上げた後、とぎれなく始まった即興曲では、後ろのギターのスティーヴ・プレーヤーがゆっくりと舞台前方に出て来て、すばらしいダンスを披露してくれました。最初は上半身はほとんど動かさず、大きな跳躍をしながら一回転ターンをしたり、ジャンプして足を交差させるなど、さながらバレエかと思わせるような踊りでしたが、次第にフラメンコのように派手な上半身の動きに床が抜けるかと思うような勇壮かつ華麗なサパティアード(タップ)を披露してくれました。

3グループ目はミランに基づく即興曲を挟んで、ディエゴ・オルティスのレセルカーダ集から2曲が演奏されました。ここでは、ヴィオラ・ダ・ガンバを弾いていたヒル・パーレの演奏が光りました。女性とは思えないような太くて豪快な音で、文句のつけようがないくらい上手でした。CDで聴いていたとき、私はてっきりこの人は男だと思っていたんです。文字通り、目から鱗が落ちました。
ミランに基づく即興は歌がついて、その次のオルティスの「テノールのレセルカーダ」はほとんどトラッド・ミュージックのノリで、全員で楽しそうに合奏していました。

4グループ目の即興「カナリーオ」では、パーカッションとサパティアードの掛け合いがとても素晴らしかったです。曲の途中であまりの素晴らしさに、お客さんが拍手を送ったくらいでした。どことなく、大道芸の匂いを感じさせるパフォーマンスでもありました。ちなみに、「カナリーオ」は、カナリア諸島の舞曲です。

5グループ目も楽しい演奏とダンスで客席をわかせてくれましたが、特に最後の「パラディータ」で、ダンス+ギター担当のスティーヴ・プレーヤーが客席に飛び降りて来て、ほとんどウクレレと見まごうばかりのソプラノ・バロック・ギターを弾きながら通路を流して歩き出したのには参りました。本当に、プレーヤー氏はサービス精神の固まりのようなお方でした。

20分の休憩を挟んで後半開始の1曲目、舞台には4人だけで、パーカッションとダンスのふたりはお休みなのかしらと思うまもなく、ローレンス=キングがゆったりとハープをかき鳴らした途端、客席後方からなにやら怪しい音が! 何事かと思って振り向くとパッと扉が開いて、プレーヤー氏はバグパイプを吹き鳴らしつつ、そしてパーカッションのミヒャエル・メツラーはタンバリンを叩きつつ登場しました。
「ガイタ」という曲はもともとバグパイプを“模倣”した田舎風の曲で、CDでは金属系の楽器のにぎやかなアンサンブルで演奏されています。それを本当にバグパイプで演奏してしまったんですが、さすがに本物はきまってました(笑)。この曲も、大道芸よろしく、ふたりで通路を流しつつ、美女(?)と見ればその前で止まってたっぷりと音楽をサービスをしてから舞台に戻って行きました。

後半の曲では、「チャコーナの夕べが」の猥雑な歌と踊りも面白かったですが、「馬上試合」が一番の聞き物(見物?)だったように思います。単純な和音の上で即興演奏が延々と5分くらい続いたのですが、ハープ対ギターとガンバの掛け合いで馬上試合を表現していて、とても白熱した演奏だったと思います。
この曲では馬上試合を表すためにふたりの人間が槍を持って踊るらしいのですが、プレーヤー氏は槍ではなく箒をを持って登場しました。そして、ひとりで八面六臂の活躍で二役を演じたのですが、舞台最前列で箒を振り回し、かけ声をあげて走り回り、最後にはバグパイプを鉄砲代わりに持ち出して撃たれるマネをするなど、ダンスと言うよりはマイムの域で、会場は沸きに沸き返って爆笑の渦になりました。

ダンスと音楽が渾然一体になった楽しい舞台はいつのまにやら最後の曲も終わってしまい、アンコールには2曲が演奏されました。2曲目は、ハープ・コンソートの2枚目のCD「カロランのハープ」からの曲で、私はこのアイルランドのトラッド音楽も大好きなので、次の演奏会はこのプログラムでやって欲しいな、などと考えながら聴いていました。

休憩も入れて2時間半の公演は、クラシックのコンサートとしては長い方だと思います。けれど、終わってみれば本当にあっという間で、そんなに時間がたっていたなんてまったく感じられませんでした。とにかく、明るくて底抜けに楽しい、興奮の2時間半でした。興奮のあまり脳が活性化してしまって、帰ってから眠れなくなってしまったのには困りましたが。

今回の公演では、「ルス・イ・ノルテ」の中でもエレガントなダンサの曲はほとんど演奏されず、演奏されたものはダンスが省略されていました。踊られたのは華麗で猥雑なバイレのみで、そう言う意味では、スペインの民衆が集う居酒屋や、お祭りなどでの庶民的なダンス・バンドの音楽会、という雰囲気でプロデュースされていたように思えます。
スペインと言うと、暗くてどろどろした雰囲気を思い浮かべがちですが、現実が暗くて重苦しいからこそ、自分たちのためにはあんな風に底抜けに楽しんで、明るく音楽やダンスをしたのかもしれない。そんなことも考えさせられた音楽会でした。


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