27 珠玉のイギリス・オペラ
   ヘンリー・パーセル/ディドーとイーニアス
   Henry Purcell (1659〜1695)/Dido and Aeneas

ルネサンス後期にバードやダウランドなど優秀な音楽家を輩出したイギリスは、17世紀前半には厳格なピューリタン革命によって音楽的には低迷期に入ってしまいます。1660年の王政復古以後、イタリアやフランスの音楽を積極的に取り入れた結果、17世紀も後半になって、ようやくバロック音楽の開花を見ることになりました。

わずか36歳で夭折したヘンリー・パーセルは、王政復古期のイギリス最大の作曲家でした。彼は、教会音楽や鍵盤楽器用独奏曲、器楽合奏曲、劇音楽など様々な分野で多くの作品を残しましたが、中でも英語による声楽曲は彼の本領が発揮された分野だと言われています。

《ディドーとイーニアス》はパーセルが残した唯一のオペラであると同時に、バロック・オペラの中でも完成度の高い、最上の作品のひとつです。古代ローマの詩人ヴェルギリウスの叙事詩「アイネイアス」に基づく、カルタゴの女王ディドーとトロイアの王子イーニアスの悲恋物語が、ひときわ美しく、印象深くつづられていきます。

中でも、劇の大詰めで瀕死のディドーが歌う嘆きのアリア『私が土の中に横たえられる時』は有名で、通奏低音の太い骨格の上に、悲哀に満ちた優雅で気品のある旋律をまとわせ、女王ディドーの悲しみを心にしみいるように表現しています。


 
【 Reference Disk 】
ピノック盤 トレヴァー・ピノック指揮/イングリッシュ・コンソート
Trevor Pinnock: direction/The English Concert
 《Dido and Aeneas》
 1988年録音 (独)ARCHIV [427624 2AH]

劇的な表現力に富む録音です。多少激しすぎると感じられなくもありませんが、それでいてバロック・オペラの節度を超えていない所にピノックの巧さがあります。ディドー役のオッターの歌唱も素晴らしく、終幕が非常に感動的な出来映えになっています。

ヤーコプス盤 ルネ・ヤーコプス指揮/エイジ・オブ・エンライトゥンメント O.
Renc jacobs: direction/Orchestra of the Age of Enlightenment
 《Dido & Aeneas》
 1998年録音 (仏)harmonia mundi [HMC 901683]

ピノック盤以上に劇的な魅力が凝縮された録音。失われたギター部分を復元するなど、ヤーコプスらしい工夫が見られます。独唱陣では、魔女役のドミニク・ヴィス(C-T)の大暴れぶりが印象的。合唱の美しさと軽やかさが際だった録音でもあります。

パロット盤 アンドルー・パロット指揮/タヴァナー・プレイヤーズ
Andrew Parrott: direction/Taverner Choir and Taverner Players
 《Dido and Aeneas》
 1981年録音 (英)CHANDOS [CHAN 0521]

エマ・カークビーの可憐なディドーが印象的な録音。全体に爽やかで伸びやかな印象があります。カークビー以下の独唱陣、及び合唱団も好演しており、室内楽的でまとまりの良い演奏だと思います。

ニケ盤 エルヴェ・ニケ指揮/ル・コンチェルト・スピリチュアル
Herve Niquet: direction/Le Concert Spirituel
 《Dido & Aeneas》
 2000年録音 (西)Glossa [GCD 921601]

ニケのコントロールによる、キリッと引き締まったアンサンブルが特徴的な録音。何よりもオーケストラが歯切れ良く、美しい響きを奏でています。声楽陣は派手さこそありませんが、深みのあるバランスの良い歌唱を聴かせてくれています。

* 私が好きな《ディドーとイーニアス》の録音には、他にホグウッド指揮/エンシェント室内管弦楽団の演奏[L'oiseau-Lyre POCL 1470]もあるのですが、現在この録音が入手可能なのかどうか、今ひとつわかりません。

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