25 繊細で柔らかな響き
   マラン・マレ/ヴィオール曲集
   Marin Marais (1656〜1728)/Pieces de viole

ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)という楽器は一見したところヴァイオリンと非常によく似ています。けれど、響孔がC字型であること、弦の数が4本ではなく6本であること、指板にギターのような弦押さえ(フレット)がついているなど、構造的にもかなり違っていている上に、チェロのように両膝に挟み込んで演奏されます。

ルネサンス時代にサロンや宮廷での合奏用楽器として発達したヴィオールは、バロック時代になるとイタリアでは早々にヴァイオリンに取って代わられましたが、イタリア風のオペラがほとんど発達しなかったフランスやイギリスでは、ヴァイオリンよりも柔らかく典雅な響きが長く愛好されました。

ルイ14世のヴィオール奏者として仕えたマラン・マレは、その生涯でヴィオールのために550曲あまりの独奏・合奏曲を作曲しました。それらは全5巻からなる曲集に納められていて、中でも第2巻に納められた『スペインのフォリア』、それぞれの楽曲に〈トルコの少女〉〈迷宮〉〈アラベスク〉などの魅力的な標題を付された第4巻・第2部の『異国趣味の組曲』、ナレーション入りで手術の様子を描いた第5巻の『膀胱切開手術図』などは特に有名です。

優美で繊細な装飾、軽やかで柔らかな旋律、エスプリに満ちた標題をもったマレのヴィオール曲は、当時のフランス宮廷音楽の洗練された趣味を教えてくれる美しい音楽です。


 
【 Reference Disk 】
サヴァール盤 ジョルデイ・サバール
 《ヴィオル曲集》
 1975〜92年録音 ASTREE [IDC6061〜6065]

サヴァールはマレのヴィオールのための組曲集を5巻にわたって録音しています。分売もされていて、どれもすばらしい演奏ですが、とりあえず1枚をというのであれば第2巻か第4巻が良いでしょうか。写真は第2巻のものです。サヴァールの演奏には激しさと穏やかさが調和していて、神秘的までの美しさを感じさせてくれます。

平尾雅子盤 平尾雅子
 《アラン・マレーの横顔》
 1993年録音 コジマ録音ALM [ALCD 1010]

女性らしい繊細さとともに、音楽の大きさを保つ持続力を兼ねそなえた平尾雅子の録音。彼女の音は常に気品に満ちていて、聴いていてとても幸せな気持ちになれます。多彩な表現力と的確なリズム感で弾ききったこのアルバムは、ヴィオールという楽器に出来うる限りのテクニックを駆使した名演のひとつでしょう。

パンドルフォ盤 パオロ・パンドルフォ
Paolo Pandolfo
 《Le Labyrinthe & autre hitoires...》
 1999年録音 (西)GLOSSA [GCD 920404]

《迷宮》を始めとした題名を持つ作品を集めた録音。パンドルフォのヴィオールには、聴くものを否応なく捕らえてしまう熱気というか、ある種の力があるように思えます。「天使のように弾く」と形容されたマレの演奏としてはやや強すぎるかもしれませんが、非常に印象的な録音です。

コワン盤 クリストフ・コワン
 《異国趣味の組曲》
 1996年録音 L'oiseau-Lyre [POCL 1866]

チェンバロにクリストフ・ルセが参加しているこの録音は、しみじみとした余韻と感動を与えつつも、切れ味の鋭さが印象的です。コワンの演奏は『異国趣味の組曲』が持つ物語性を強く内在しつつ、なめらかで明るい和音の響きによって、曲の輪郭をすっきりと表現しています。モダンで新鮮な魅力を感じさせてくれるディスクです。


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