16 初期バロック宗教曲の傑作
  クラウディオ・モンテヴェルディ/聖母マリアの夕べの祈り
  Claudio Monteverdi(1567-1643)/Vespro della Beata Virgine

モンテヴェルディの《聖母マリアの夕べの祈り Vespro della Beata Vergina》は、バロック初期の宗教音楽の傑作であり、その後のバロック宗教音楽の方向性を決定づけた曲だといっても過言ではありません。

《聖母マリアの夕べの祈り》は、マリア披昇天祭の祝日の聖務日課(教会の日常のお務め)中の、晩歌(夕べの祈り)として作曲されたものです。けれど、実際に典礼に用いられる音楽としての働きよりも、作曲家の才能を披露するための音楽としての機能の方が強かったようです。

冒頭の歌い出しの部分からオペラの《オルフェオ》の冒頭のファンファーレが使用されるなど、まず、そのきらびやかさに度肝を抜かれます。ルネサンスの様式とモンテヴェルディならではの劇的な表現様式が巧みに組み合わされ、非常に変化にとんだ劇的な音楽が展開されていきます。

さらに、演奏に当たってはグレゴリオ聖歌も挿入され、なおさら多彩な印象を与えられます。聖歌の選択や曲順の入れ替え、ピッチなども演奏者の考えにゆだねられる部分が多く、ある意味では同じ録音はひとつも無いと言って良いかもしれません。

モンテヴェルディの《聖母マリアの夕べの祈り》は、ヨーロッパのキリスト教が生み出した宗教音楽を考えるとき、絶対に外すことの出来ない名曲のひとつです。


 
【 Reference Disk 】
サヴァール盤 ジョルディ・サヴァール指揮/ラ・カペーリャ・レイアル
Jordi Savall: direction/La Capella Reial de Catlumya
 《VESPRO della Beata Vergina 1610》
 1988年録音 (仏)ASTEER [E 8719]

当時のスペイン・イタリア・フランスの古楽演奏家が結集して、その実力をいかんなく発揮した名盤です。サヴァールの指揮のもと、歌心に満ちた豊穣な演奏が展開され、柔らかさと暖かさが感じられます。その分、きらびやかな華麗さはあまり感じられませんが、リズムの躍動感はラテン系らしい独特ものもがあります。

ガリード盤 ガブリエル・ガリード指揮/アンサンブル・エリマ
Gabriel Garrido: direction/Ensemble Elyma
 《Vespro della beata virgine》
 1999年録音 K617 [K61 7100]

イタリア系の演奏家を主とした、ラテン系の表情豊かな録音。熱演という表現が本当によく似合いますが、力が入りすぎて細部がはっきりしない所も……。けれど、各部分の表現の違いが明確で、躍動感に満ちた演奏を聴かせてくれます。宗教曲の表現としては少し外れているかもしれませんが、非常に面白い録音だと思います。
ガーディナー盤 ジョン・エリオット・ガーディナー指揮/モンテヴェルディ管弦楽団
 《聖母マリアのための夕べの祈り(晩課)1610年》
 1974年録音 DECCA [UCCD 3088/9]

音楽だけなら、ガーディナーは旧盤の方が良いように思います。生命力と躍動感に満ちた若々しさとともに、自然な流れを感じさせるのはガーディナーの構成力のたまものでしょう。ソリストや合唱団の素晴らしさはもちろんですが、PJBEやデイヴィッド・マンロウ・リコーダー・アンサンブルなどの共演者の顔ぶれも豪華です。ARCHIVから出ている新盤は、CDよりもLDの方がお薦めでしょう。
ヤーコプス盤 ルネ・ヤーコプス指揮/コンチェルト・ヴォカーレ
Rene Jacobs: direction/Concerto Vocale
 《VESPRO della Beata Vergina》
 1995年録音 (仏) Harmonia Mundi FRANCE [HMC 901553.54]

声楽パートが充実したきらびやかな録音。多分、現在入手可能なモンテヴェルディのヴェスプロの中で、一番雄弁な録音ではないかと思います。ただし、陰影の強い表現力が、逆にあくの強さを感じさせるかもしれません。それでも、いつの間にか聴き手を引き込んでしまうヤーコプスならではの説得力があります。

鈴木雅明盤 鈴木雅明指揮/バッハ・コレギウム・ジャパン
Masaaki Suzuki: direction/Bach Collegium Japan
 《Vespro della beata virgine》
 1999年録音 (瑞典) BIS [BIS 1071]

日本人演奏家を中心とするBCJによるヴェスプロは、ピッチがやや高めではありますが、何を置いても響きの美しさに特徴があります。ドラマチックな表現が押えぎみなので、物足りなく思う人もありそうですが、心地よさではとにかく一級品です。数あるヴェスプロの中でも、代表盤のひとつに数えて良い録音だと思います。


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