14 秘められた信仰の音楽
  ウィリアム・バード/3声,4声,5声のミサ曲
  William Byrd(1543-1623)/The Masses

ウィリアム・バードは、エリザベス1世(1558-1603在位)の時代に宮廷音楽家として活躍し、同時に、当時のイギリスで最高の音楽家として認められた人物でもありました。

しかしながら、英国国教会の立場をとるエリザベス1世のもとで、バードはカトリック教徒として信仰を持ち続けていました。“国教忌避者”として晩年にはロンドンからエセックスへと隠棲しますが、そこでもたびたび告発を受けたり罰金に処せられたりと、度重なる弾圧に耐えながら信仰を守り通しました。

バードの3声、4声、5声の3つのミサ曲は、1592〜95年にかけて出版されましたが、なぜかその楽譜には表紙がつけられていませんでした。その理由はわかっていませんが、彼の信仰のありようから色々なことが想像されます。

例えば、3つのミサ曲とも、曲の形式は英国国教会の典礼にそっていることが、今日の研究で明らかにされています。けれど、バードや彼の周辺の人々は、実際はこの曲をカトリックの典礼音楽として利用していたのかもしれません。それ故に、版元が判明することを怖れて表紙をつけなかったのではないか、と考えることも可能なのではないでしょうか。

バードの3つのミサ曲は、静けさに満ちた美しいハーモニーの中に、不思議に感動的な世界が形作られているように思われます。それは、バードの秘められた宗教への情熱が、曲の中に吐露されいるからかもしれません。


 
【 Reference Disk 】

タリス・スコラーズ盤 ピーター・フィリップ指揮/タリス・スコラーズ
Peter Phillips: direction/The Tallis Scholars
 《The Three Masses》
 1980年録音 (英)Gimell [CDGIM 345]

最高音をソプラノ(女声)にして、各声部を2〜3人の編成で演奏した録音。残響も美しく、理想的な「教会音楽」としてのイメージを実現しています。各パートの音色が非常に暖かく、それでいて濁りを感じさせません。柔らかく澄み切ったハーモニーが美しく響く、この上ない演奏です。

ザ・シアター・オブ・ヴォイスィズ盤 ポール・ヒリアー指揮/ザ・シアター・オブ・ヴォイスィズ
 《タリス,バード,タヴァナー,エドワーズ,シェパード》
 1992年録音 ECM [POCC 1020]
        *ECM New Series [4391722]

バードと同時代のタリスやタヴァナーらの英語のパート・ソングを額縁に、バードの4声のミサ曲とラテン語によるモテトゥスなどを配した録音。4人という小編成の研ぎ澄まされたアンサンブルは、チューダ王朝期のカトリック教徒による秘密ミサめいた雰囲気を感じさせてくれます。
ゲンブリッジ・キングスカレッジ合唱団盤 デヴィッド・ウィルコックス指揮/キングズ・カレッジ合唱団
Sir David Willcocks: direction/Cambridge King's College Choir
 《3 Masses》
 1959,62年録音 (英)Double Decca [4521702]

古い録音で、ややムード音楽的な、輪郭がぼやたような雰囲気がありますが、合唱らしい独特の陰影が、しっとりとした柔らかさを醸し出して、アンサンブルとは違った魅力を感じさせてくれます。Tavernerの「西風のミサ」との2枚組で、こちらも美しい録音です。

パルティアXVI盤 マリー・ジャン・ニューマン指揮/パルティアXVI
Mary Jane Newman: direction/PartheniaXVI
 《The Three Masses for Five, Four, and Three Voices》
 1999年録音 (米)Centaur [CRC 2471]

アンサンブルにかなり甘さはあるのですが、虚飾のない真摯な演奏で、この曲が持つ信仰への想いを、深く表現しているよう感じられる録音です。代表盤として薦めるには多少問題があるかもしれませんが、素朴な雰囲気を持った、優しい響きのディスクです。

* このほか、プロ・カンティオーネ・アンティクァの『3声のミサ』(Archiv-POCA 2095)やヒリアー指揮/ヒリアード・アンサンブルの『3つのミサ曲』(英EMC-CDM 7 63441 2)の録音なども良い演奏なのですが、現在の所カタログ上でみあたりません。どちらも復活して欲しい録音です。


[back] [index] [home] [next]