13 チューダ王朝の宗教曲
  トマス・タリス/エレミアの哀歌
  Thomas Tallis(1505?-1585)/Lamentations of Jeremiah

16世紀のイギリスでヘンリー8世、エドワード6世、メアリ1世、エリザベス1世の4人の君主に使え、教会がカトリックとプロテスタント(英国国教会)の間で二転三転する激動の時代を生き抜いたトマス・タリスの作品の中でも、《エレミアの哀歌》はチューダ王朝時代のイギリス教会音楽を代表する作品と言えるでしょう。

《エレミアの哀歌》は、旧約聖書に記された予言者エレミアのことばによっています。これは、新バビロニアによって滅ぼされたイェルサレムの荒廃を嘆き、不信心者に正しい信仰の道へ立ち返るように勧めるものです。

15世紀以降、様々な作曲家が《エレミアの哀歌》を多声楽曲として作曲していますが、中でもタリスの作品の静謐さと甘美さは群を抜いているように思えます。シンプルで淡々とした旋律の中に、切ないまでの思いが込められているように感じられます。

青年時代のタリスは、いくつかの教会にカトリック教の信者として仕えていました。《エレミアの哀歌》自体はカトリックではなく、国教会の典礼のための作品として書かれたとされていますが、もしかすると、タリス自身の秘められた悲哀が込められているのかもしれません。

この曲の録音では、やはりイギリスの重唱団や合唱団による演奏が優れているようです。ここにあげた以外にも、プロ・カンティオーネ・アンティクァ盤やパロット指揮タヴァナー・コンソート盤など、それぞれにおもむきがあって甲乙つけがたいものがあります。


 
【 Reference Disk 】
ヒリヤード・アンサンブル盤 ポール.ヒリアー指揮/ヒリヤード・アンサンブル
 《エレミアの哀歌》
 1986年録音 ECM [POCC 1524]

男声のみの重唱による演奏。どちらかというと重く粘りのある表現で、この曲の哀切感を切々と訴える歌唱です。細部まで磨き抜かれた各声部の動きが明瞭で、細い絹糸で編んだレースのような、繊細で豪奢な美しさを感じさせます。

タリス・スコラーズ盤 ピーター・フィリップ指揮/タリス・スコラーズ
 《エレミアの哀歌》
 1992年録音 Gimell [PHCP 1905]

ソプラノを女声にした録音。各声部を2名程度で演奏しているため、柔らかさとともにボリューム感が感じられます。ほのかな陰影を帯びた柔らかな声が絶妙のハーモニーを作り出し、真摯な祈りの雰囲気を感じさせます。

キングス・シンガーズ盤 キングス・シンガーズ
 《イギリスのルネッサンス〜タリス&バード宗教曲集》
 1994年録音 RCA(BMG) [BVCC 704]

軽い発声と端正な歌唱を特徴とする男声による録音。ヒリヤード・アンサンブルやタリス・スコラーズに比べるとやや硬質な印象がありますが、同時にそれが、ともすれば重くなりがちなこの曲に素晴らしい透明感を与えています。

プロ・カンティオーネ・アンティクァ盤 マーク・ブラウン指揮/プロ・カンティオーネ・アンティクァ
Mark Brown: direction/Pro cantione Antiqua
 《Thomas Tallis: Motets-Lamentations-Hymns》
 録音年不明 (英)Regis [RRC 1026]

なめらかな流れと優しい響きが美しい男声による録音。練りあげられたハーモニーによって、透明感にあふれた演奏を繰り広げています。多少、ムードに流れる傾向がなくもありませんがが、格調の高さと風格が感じられる演奏です。


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