12 スペインの憂愁
  トマス・ルイス・デ・ビクトリア/6声のレクイエム
  Tomas Luis de Victoria(1548-1611)/Requiem A 6

16世紀、フェリペ2世(1556-98在位)の時代にミサ曲やモテトゥスなどの宗教音楽の分野で優れた作品を残したトマス・ルイス・デ・ビクトリアの作品は、保守的なポリフォニー形式で書かれているにもかかわらず、スペイン的な陰影を感じさずにはおきません。

ビクトリアは4声と6声の2種類のレクイエムを作曲しまいしたが、《6声のレクイエム》は彼が晩年に使えたスペインの皇太后の葬送のために作曲された作品です。通常のレクイエムに加えて何曲かの死者のためのレスポンソリウム(応唱)という曲を付加して、《死者のための聖務曲集》としてまとめられています。

パレストリーナ的な透明感とスペイン的な神秘性が融合した、力強さと深みを感じさせる独特な美しさが、ビクトリアの作風の特徴と言われています。

長く持続して歌われるグレゴリオ聖歌の定旋律の上に各声部が厚く絡み合い、息の長い大きな流れとうねりをもってもつれ合いながら高みへと上昇しようとする音の流れは、エル・グレコの絵に感じられる神秘性とどことなく共通したものがあるように思えます。

スペイン人ならではの強い情感を感じさせてくれるビクトリアの6声のレクイエムは、音楽史上にあまた存在するレクエムのなかでも、名品のひとつだと言えるでしょう。


 
【 Reference Disk 】
タリス・スコラーズ盤 ピーター・フィリップ指揮/タリス・スコラーズ
Peter Phillips: direction/The Tallis Scholaes
 《6声のレクイエム》
 1987年録音 (英)Gimell [CDGIM 012]

磨き上げたハーモニーと完璧な声によって、作品の神秘性とひたむきさを浮き彫りにした録音。各声部を二人ずつで歌っており、透明感のすばらしさとしっかりとした構築感が際だっています。端正でポリフォニックな起伏にとむ上に、どことなくスペイン的な情熱をも感じさせる、磨き込まれた美しい響きを持った演奏です。

マニフィカト盤 フィリップ・ケイヴ指揮/マニフィカト
Philip Cave :director/Magnificat
 《Officium Defunctorum》
 1999年録音 (英)LINN [CDKD 060]

《6声のレクイエム》を含む《死者のための聖務曲集》の全曲を収録した録音。合唱のバランスと透明感は、タリス・スコラーズを上回っているように思われます。余りにも研ぎ澄まされていて、息苦しさを感じる場合もあるかもしれませんが、聴く者の魂に強く訴えかける名演でしょう。

ヒル盤 デイヴィッド・ヒル指揮/ウェストミンスター大聖堂聖歌隊
David Hill :director/Winchester Cathedral Choir
 《REQUIEM》
 1987年録音 (英)hyperion [CDA 66250]

聖歌隊合唱による残響豊かな録音。ソプラノとアルトを少年合唱が担当する多人数の合唱のため、分厚い音と遅めのテンポの流麗な響きを特徴としています。細部の明確さはタリス・スコラーズやマニフィカトに一歩譲りますが、真摯な祈りが感じられる演奏です。


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