|
近代以前の人々にとって、「死」は常に日常的な出来事だったと思われます。天変地異や疫病で簡単に多くの人間が命を失い、出産によって母親が亡くなることも多く、産まれた子供の多くは早死にしてしまう。そんな人々にとって「死」は常に隣にあるものではなかったでしょうか。
ルネサンス期の音楽をリードしたフランドル楽派の作曲家の中でも、デュファイやジョスカン・デプレと並んで、オケゲムも15世紀を代表的する音楽家の一人です。彼の代表作である《レクイエム》は、死者が最後の審判においてその罪を赦され、天国に迎え入れられるように執り行われるミサのための典礼文をポリフォニー形式で作曲した、現存する最古の《レクイエム》です。
低い音域で延々と繰り返される模倣を特徴とするオケゲムの《レクイエム》は、後代に作曲されたレクイエムのようなロマンチシズムもきらびやかさも持たない、淡々とした音楽のように聞こえます。けれどそれは、「死」と身近に接することを運命づけられた人々の、死者に対する静かな眼差しと押し殺された憤りをも感じさせてくれるような気がします。
決して派手ではない、どちらかと言えば地味な音楽なのですが、それだけに、当時の人々の深く静かな祈りが伝わって来るようです。
|