07 「死」を見つめて
  ヨハンネス・オケゲム/レクイエム
  Joannes Ockeghem(1410?-1497)/Requiem

近代以前の人々にとって、「死」は常に日常的な出来事だったと思われます。天変地異や疫病で簡単に多くの人間が命を失い、出産によって母親が亡くなることも多く、産まれた子供の多くは早死にしてしまう。そんな人々にとって「死」は常に隣にあるものではなかったでしょうか。

ルネサンス期の音楽をリードしたフランドル楽派の作曲家の中でも、デュファイやジョスカン・デプレと並んで、オケゲムも15世紀を代表的する音楽家の一人です。彼の代表作である《レクイエム》は、死者が最後の審判においてその罪を赦され、天国に迎え入れられるように執り行われるミサのための典礼文をポリフォニー形式で作曲した、現存する最古の《レクイエム》です。

低い音域で延々と繰り返される模倣を特徴とするオケゲムの《レクイエム》は、後代に作曲されたレクイエムのようなロマンチシズムもきらびやかさも持たない、淡々とした音楽のように聞こえます。けれどそれは、「死」と身近に接することを運命づけられた人々の、死者に対する静かな眼差しと押し殺された憤りをも感じさせてくれるような気がします。

決して派手ではない、どちらかと言えば地味な音楽なのですが、それだけに、当時の人々の深く静かな祈りが伝わって来るようです。


 
【 Reference Disk 】
アンサンブル・オルガヌム盤 マルセル・ペレス指揮/アンサンブル・オルガヌム
Marcel Peres :director/Ensemble Organum
 《Requiem》
 1992年録音 (仏)harmonia mundi [HMD 941441]

オケゲムが作曲したミサの通常文に、聖歌や他の作曲家の聖歌などを補って、実際の「死者のためのミサ」風に演奏されています。一部、ボーイ・ソプラノも動員するなど、この団体の特徴ともなっているあくの強さはあまり感じられません。オケゲムの真摯な祈りが伝わって来るような、静かな力強さを感じさせる録音です。

クラークス・グループ盤 エドワード・ウィッカム指揮/クラークス・グループ
Edward Wickham :director/The Clerks' Group
 《Requiem》
 1996年録音 (英)ASV [CD GAU 168]

丁寧に演奏された味わい深い録音です。ことさらに死者を悼むオーバーさが無く、リズムや声部の綾がすっきりと見通しよく整理されています。どちらかと言えば地味な演奏ですが、曲の細部にまで気が配られた美しさが感じられます。

ヒリアード・アンサンブル盤 ヒリアード・アンサンブル
The Hilliard Ensemble
 《Requiem》
 1985年録音 (英)Virgin Classics [VER 5612192]

ヒリアード・アンサンブルの演奏は、人間業とは思えないような精緻さを感じさせます。澄んだ声質と繊細な表現は、なだらかな旋律の織りなす綾を、くっきりと浮かび上がらせて余すところがありません。細部にまで気が配られた、透明な美しさを感じさせる録音です。

プロ・カンティオーネ・アンティクァ盤 ブルーノ・ターナー指揮/プロ・カンティオーネ・アンティクァ
 《死者のためのミサ曲(レクイエム)》
 1973年録音 Archiv [POCA 2554]

オケゲムの《レクイエム》の録音としては古いものですが、プロ・カンティオーネ・アンティクァのしっとりとした歌唱が、曲の美しさと深さを感じさせてくれます。オケゲムにしては、少しロマンティックに流れるすぎるように感じられる部分もありますが、印象的な演奏です。


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