03 「至純の愛」の歌
  トルバドゥールとトルヴェールの歌 Trobadour, Torouvere

12世紀前後に南フランスのプロヴァンスを中心に、南フランスではトルバドゥール、北フランスではトルヴェールと呼ばれる恋愛歌人による世俗歌曲が繁栄しました。

主として騎士ないしは貴族階級の詩人音楽家であった彼らの第1テーマは「至純の愛」または「宮廷風恋愛」と呼ばれるもので、理想化された貴婦人(主に既婚)に愛を捧げる騎士というシチュエイションで、様式化された「愛」を歌い上げています。

古楽の中では古くから人気のあるレパートリーなのですが、トルバドゥールの起源がよくわからないために演奏スタイルも実に様々です。

諸説の中で有力なものにアラブ起源説があるので、初期の録音はアラブ・アンダルシア的な雰囲気を強調したものが多く、70年代の演奏の主流は笛や太鼓の伴奏が鳴り響くような、東洋色の濃い音づくりをしているものがほとんどです。

それに比べると、最近の録音はハープのみの伴奏だったり、場合によっては無伴奏で、歌詞をじっくりと聴かせようとする録音が主流になっています。

どの録音を選んでも、あまりハズレはありません。それぞれに趣がある美しい演奏が多いので、あとは好みによって選んでいけば良いのではないでしょうか。


 
【 Reference Disk 】
ポール・ヒリアー盤 ポール・ヒリアー Paul Hillier
 《プロエンサ/中世トルバドゥールの恋歌》
 1988年録音 ECM [POCC 1522]
       *ECM New Series [8373602]

ポール・ヒリアーのバリトンで、トルバドゥールの名曲がしっとりと語るように歌われる録音。とてもシンプルで派手さは無いですが、聴くほどに味わいが出てきます。ヒリアーの声に絡むトラジコメディアの演奏も素晴らしく、いつしかに幽玄の世界へと誘われて行きます。

 
ビンクレー盤 トマス・ビンクレー指揮/ミュンヘン古楽スタジオ
Tomas Binkley: direction/Studio der Fruhen Musik
 《Troubadours, Trouveres, Minstrels》
 1966,70,77録音 (独)TELDEC [4509-97938-2]

日本で76年にLPで発売されたものと同じ音源によるものと思われる録音。トルバドゥールやトルヴェール、ミンストレル(ジョングルール=中世の旅芸人)の音楽を、笛や太鼓も加わったリズミカルでにぎやかな演奏で繰り広げています。アラブ・アンダルシア的な雰囲気で演奏されたディスクの中でも、選曲の良さと味わいの深さが際だつ1枚です。

コーエン盤 ジョエル.コーエン指揮/ボストン・カメラータ
Joel Cohendirection/The Boston Camerata
 《Tristan et Iseult》
 1987,88年録音 ERATO [4509-98482-2]
トルヴェールの曲を中心に12〜13世紀の樣々な曲が散りばめられ、トリスタンとイズー(イゾルデ)の悲劇的な恋物語へと再構成された録音。企画盤の一種ではありますが、トリスタン役のルドロワを筆頭とした歌手陣がすばらしく、しっとりとした演奏の中に、中世の「至純の愛」を薫り高く再現しています。

アンサンブル・ユニコーン盤 アンサンブル・ユニコーン
Ensemble Unicon
 《トゥルバドゥールの音楽 Music of the Troubadours》
 1996年録音 (香)NAXOS [8.554257]

アンサンブル・ユニコーンは、NAXOSから中世音楽の興味深い録音を何枚も出していますが、これはその中でも優れたものだと思います。最近の録音としては珍しく、かなりアラブ的で即興性に優れた演奏が繰り広げられています。癖のあるエスニック調の歌唱が印象的な、とにかく聴いて楽しいディスクです。

 
ダンスリー盤 松井智恵/ダンスリー
 《暁の歌》
 1991年録音 AELION RECORDS [AEO 505]

ソプラノの松井智恵と岡本一郎がひきいる古楽合奏団のダンスリーによる、トルバドゥールとトルヴェールの歌曲集。ダンスリーの古楽器の扱いには押し付けがましさがありません。もう少し強さがあっても良いような気もしますが、松井智恵のヴィヴラートを押さえた歌唱とあいまって、リリシズムに溢れた美しい世界を作り出しています。

 

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