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優子が焼きそば屋の売店に戻るとそこには友達の姿は無く、代わりの珍しい人物が店番として椅子に座っていた。
「あれ、明日香ちゃん。どうして此処に居るの?っていうか、何で店番してるの?」
「実はですね。優子さんを訪ねるためにこの売店に来たのですが、優子さんの友達のトモコさんと言う方が探してくるから此処で店番をして欲しいと言ってどこかへ行ったままなんです」
「あー、それはご苦労様。で、私に何か用があったんだよね?」
心の中では絶対にその友達、トモコが帰ってこなかっただろうと思い何も気づかずに店番をしていてくれた明日香に謝りつつも優子は話をかえた。
「はい、そうでした。実は昨日の夜遅くに芝三郎君が来まして優子さんが言ったとおりに、私にあるお願いをして行きました」
「うん。そっか、明日香ちゃん報告有難う。これで予定通りだわ。でも、芝三郎君のところには行っちゃ駄目よ?ちゃんと彼女の方に行かなきゃ」
「わかってます。芝三郎君の所には優子さんが行くんですよね」
「まあ、私がどうにかするって言うわけじゃないんだけど・・・どうにかするためにちょっとお手伝いをするだけで・・・」
「そうですか?でも、この学校を壊さないために動くんですからいいじゃないですか」
「そう・・・かなあ・・・・。どっちかって言うと、明日香ちゃんの方が大仕事のような気もしないけどねえ・・・あ、そういえばこの前言ったでしょ?さんづけじゃなくてちゃんづけにしてって」
「そうでしたね。ごめんなさい」
「いいの、いいの、今度から気をつけてくれればね。んで、一応いろいろまわって来たんだだよね?どうだった?」
「みなさんとても楽しそうにこのお祭を楽しんでいましたよ。中には私が嫌な意味で楽しんでいる人も居たようですけど・・・」
「それで、封斗君達へのみかたは変わった?」
「どうしてですか?そんな封斗さんたちへのみかたが変わるはずが無いじゃないですか」
本気で不思議そうに答える明日香に優子は「ごめん、ごめん」と謝ると嬉しそうに笑った。
そして、自分がしている時計をみて考えると明日香に首からかけられるように出来た看板を渡す。
「なんですか?これは」
「私が教えた時間まで時間があるでしょ?だからそれまでこのお店の宣伝してきて欲しいの」
「はあ、そうですか・・・」
「うん。よろしく。さあ、さっさと行ってくるっ!」
「はいっ」
走っていく明日香の後姿を見送り優子はパイプ椅子に座ると盛大に溜息をついた。
「大変だねえ。まあ、私が望んでることだから良いけど」
「そうなのか」
「ぎゃあっ」
驚いて優子は椅子から滑り落ちそうになりすんでの所で止まり後ろを振り返る。そこにあったのは雅堵だった。
「色気の無い声」
「私に色気を求めること自体間違ってるの。で、どうしてさっき別れたはずの雅堵君がどうしてここにいるの?」
「いや、焼きそば食べてる時に君嶋たちにあって逃げてる途中にあいつらと逸れた」
「へー、そうなの。んで何処から聞いてたわけ?」
「そんな、話とかは聞いてない。小暮が走っていくところからかな。はい、ゴミ」
「ならいいんだけど。ゴミ渡さないでよ」
そう言いつつも優子は割り箸とプラスチック製のパックをゴミ袋に分別して捨てる。雅堵は折りたたんであったパイプ椅子をひらくとそれに座った。
「なんで我が物顔でその椅子に座ってんのよ。それは友達用に私が一生懸命体育館から盗んできた椅子なのよ」
「盗んでくるなよ。それに、友達は今いないだろ」
「そういう問題じゃないのよ。もしかしたら友達が帰ってくるかもしれないじゃない。その時はどうするのよ」
「その時は退く。でも当分帰ってこないだろうな」
「なんでそういい切れるわけ?」
「お前の友達がさっき違うところで店番してたから」
「なにそれ。それは本当?どうりで私に必死にこの仕事頼んできたかわかったわ・・・」
その時、優子のエプロンのポケットから携帯の着信音が鳴り出した。
「優子ですけど。・・・・ああ、朝子ちゃんか。何々?情報提供の以来?誰か人探しかな?・・・・え、伊瀬川君が何処にいるのか?うーん・・・ちょっとまってね」
優子は手元にあった紙にペンで文字を書いて雅堵にみせる。
『朝子ちゃんからの依頼、雅堵君探してるんだって。どうする?』
その書かれた紙を優子から奪い取ると雅堵もペンで文字を書く。
『断われ。今すぐ断われ』
その予想通りの返答に優子はにやりと笑ってまた紙に文字を書きだす。
『見返りは?』
その回答に雅堵は眉を寄せるが仕方ないとばかりに溜息をつくと、紙に文字を書いて優子にみせた。
『昼飯1週間奢る』
「のった!・・・・え?いや、別にどうもしてないよ?朝子ちゃん、申し訳ないんだけど伊瀬川君の情報は今のところないや。ごめんね。・・・・・うん、わかったらまた連絡するから。・・・・・・じゃあね」
携帯を切ると優子は嬉しそうに笑っていた。
「いやあ、申し訳ないわねえ。一週間お昼ご飯奢って貰うことになっちゃってえ」
「どこが申し訳ないと思っててるんだ。嬉しいって顔してるぞ」
「そんな事無いよ?」
「一つ聞きたいんだがお前、今までに君嶋に俺の居場所を教えたりしたか?」
「うーん。あははーっ・・・・したね。でも、アルバイト先とかは教えてないのよ?私が困るっていう理由の他にもやっぱり雅堵君も迷惑かなっていう配慮もあったのよ?」
「お前の迷惑っていう私情もあったのかよ。まあ、まだ教えてないだけでもいいけどな・・・・」
「だから、今度情報とかいろんなこと聞きたいんだったら雅堵君には無料で教えてあげるって言ったのよ。一応、私も悪いことしてるなあって思う気持ちもあったんだから。じゃあ、私がさっき言ってたアレのことに対して教えようか?」
「それはいい。七幸から聞いた」
「はやいねえ。じゃあ、その映像が頭の中に流れてくる時間がいつかって言うのを教えるよ」
「いつなんだよ」
優子は時計を確認すると立ち上がった。
「あと3分後。じゃ、私はすることがあるから店番よろしく」
言うが早いか、優子はさっさと走っていた。
「おいっ」
雅堵の声にも走りながら手を振り優子はしばらく走ったあとに目標相手の姿をみつける。そしてその人物の名前を呼んだ。
「元倉さーん」
その声に振り返った悲喜は立ち止まる。そして今しがた自分のことを読んだ同じ学年の見知らぬ少女を見た。
「なにか、用?」
「ちょっと用事があってね」
にこにこと笑う優子に悲喜は怪しいと言う目つきで見る。
引きの隣にいた俊也はその人物の名前は分かっていたが、喋ったことは無い。
「えっと、奥西さんだよね?悲喜ちゃんになにか用があ」
その時、悲喜、俊也、優子、学校にいた全ての人たちの脳の中に今まで見たことの無い綺麗な映像が流れた。
「何っ!今のっ」
驚く俊也とは違い、悲喜の顔は真っ青だ。優子はそんな様子の悲喜に囁く。
「中庭のところに彼がいるから早く行って。今ならまだ間に合うから。池村浩介によって貴方に任された弟を守る方法があるでしょ?」
驚いた目で優子を見つめた悲喜に優子はもう一度言う。
「早く」
我に返ると悲喜は走り出した。その悲喜に驚いた俊也だったが、悲喜を追いかけて走り出していく。
そんな2人を見届けると優子は溜息をついて、空を仰いだ。さっきの事態に未だに回りは驚きの声が聞こえてくる。
「さてさて。明日香ちゃんの方は問題ないとして、私の仕事も終ったし店に帰ろうっと」
ゆっくりと優子は歩きながら雅堵を店番として残してきた店へと足を向ける。
優子の目論み通りならば雅堵が店番をしていることで客が多くなるはずだ。優子がいた時は優子自身が店の前に準備中の札を立てておいたのだから当然焼きそばを買いに来る客はいなかった。そして、走ってくる前にきちんと札を倒しておいたのだ。
その客の大半は女子であることも優子はきちんと考えている。
だから作り置きしてきた焼きそばのパックは女性が食べやすい量しか入れてない。
そして自分に仕事を押し付けた友達から言われたバイトの金額よりも多くバイト量をもらおうと企みながら優子は店へと戻る。
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