Deep Sea/Text






ペナルティ/3








「あー、さすがにキツイ・・・膝が、まだ笑ってる・・・」
「自業自得だ」
「うん、それは否定しないけどね・・・結構、楽しかったからいいけど」
「・・・まったく、お前らは一体何を考えているんだ」

すでに日は暮れ、残り時間いっぱい走らされた部員達はへとへとになりながらそれぞれの家路についた。その前に特別メニューをやはり死ぬ気でこなしていたレギュラー陣は、まさに半死人状態で、ふらふらと学校を後にした。結局不二が、まだしつこく怒っている手塚の『おもり』役を買って出る形で、一緒に帰ることになった。
まだ憤慨している手塚の様子に、不二はクスクスと笑った。

「まあ、怒らない怒らない。それだけ、みんな君に関心があるってことだよ」
「理解し難いな」
「そう?好きな人の考えてることって、知りたくない?」
「・・・よくわからん」
「手塚は気にならないの?僕は、気になるけどなあ・・・」

へえ、と少し驚いたような顔で手塚は不二を見た。

「何?」
「お前は、あまり他人に興味がないのかと思ってたから」
「そりゃ『他人』には無いよ、興味なんて。『好きな人』には、あるけどね」
「そうか」
「手塚は無いの?気になったり、しない?」

手塚はちらと不二を見て、また前を見て、しばらく黙っていたが、やがて、

「ああ、無いな・・・というより、好きな相手にそんなこと、考えてる余裕が無い」
「・・・!」
「多分、な・・・」
「・・・それは、君が」
「俺が、何だ」
「いや・・・ハハ、何でもないよー」

それは、君が。
その後に続く言葉は、口にするとなんだか手塚が遠くなってしまう気がして、やめた。
代りに、いつもの軽口をたたいた。その方が、今の気分にあってるだろう。

「でもさ、君、顔には出さなかったけど、結構焦ってただろ?さっき」
「・・・!急にあんなことを言われたら驚いて当然だろう」
「ふーん」
「何が言いたいんだ」

少し顔を赤くして怒っている手塚の横顔を不二は面白そうに見つめている。
言おうかどうしようか、でもあまり虐めるのもなんだしな・・・と迷っていたことを、結局、勢いで言ってやることにした。

「ていうかさー・・・君、もしかして、質問したのが越前君だから焦ったんじゃないの?」
「!!な、何を言って・・・!」

その手塚の狼狽ぶりに、不二の笑顔が微妙に変化した。笑っているのに、怖い。

「あー何?そのあわてぶり。図星なわけ?」
「違・・・お前が変なことを言うからだ!」
「ふーん、そうか、そうなんだ。僕、明日、女子部のみんなに言いふらしてやろっと」
「不二、いいかげんにしろ!怒るぞ!」
「もう怒ってるくせに」
「揚げ足をとるな!」

まあ手塚がそういうのに鈍いのは、充分すぎる程わかってるけど・・・。
手塚の怒りを聞き流しながら、不二はさきほどのリョーマを思い浮かべた。

『ふざけてなんかないっスよ!』


・・・越前君のあの様子は、結構、本気だったみたいだけどねー・・・。


「・・・って、聞いているのか!不二!」
「ハイハイ、聞いてるよ。ところで手塚、話し変わるけど」
「・・・お前、全然聞いてないだろうが!」
「次の校内ランキング戦ね。僕、越前君と同じブロックでやりたいんだけど・・・駄目かな?」
「え?いや、駄目と言うことはないが・・・何故だ?」
「んー・・・別に。なんとなく、ね・・・」

そういって自分に向けられた笑顔を見て、手塚は・・・それ以上、つっこむのをやめた。
不二の笑顔は、怖かった。


しばらくして、二人の帰宅路がわかれるあたりにさしかかったころ、ふいに不二が言った。

「それにしても、君、勉強はできるクセに、ああいうところ駄目だねー」
「何のことだ」
「さっきの越前君の質問だよ。あんなの、『いない』って言っておけばそれですむ話だろ?」
「ああ・・・そういえば、そうだな」
「まあ、君のそういうところ、僕は結構好きだけどねー・・・」

笑う膝を時々曲げて、だるそうに少し前を歩いていく不二を見ながら、手塚はぼんやりと思った。
でも、やっぱり『いない』とは、言えなかっただろう、と。

「不二」
「何?」
「いや・・・じゃあな」
「うん、またねー。あ、いいかげんもう、明日はみんなを許してやりなよ?」

まるで他人事のように不二は言い、手を振って小走りに走り去った。
その姿が暗闇の中に消えるまで、しばらく手塚はそこに立っていた。



そして、翌日、翌々日の青学男子テニス部。
コートにはボールの音も影もなく、ただひたすら走らされている部員の姿と、うめき声だけがあった。

END



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