Deep Sea/Text






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昨日の夜、TVでドラマを見た。
興味なんて全くなかったけど、母さんが夢中になって見てたから、
なんとなく一緒に見てただけ。
内容は良く覚えてない。どうでもいいメロドラマだったから。
『仕事と私とどっちが大事?』とかくだらない台詞が出てくるやつ。
本当にくだらない。あまりにもくだらなさすぎて、
俺は、途中で寝てしまった。





人肌のベッドでゴロゴロしてるのは、気持ちイイ。

ガラス戸のロッカーにもたれるように置かれた学生カバン。
蓋があいて、中身が見えてる。
あ、月刊プロテニスの今月号みっけ。
今月は財政が苦しくてまだ読んでない、ラッキー。
ベッドから手を伸ばして雑誌をカバンから抜き取って、
上半身だけおこして肘ついて、ページをめくる。
この試合、こないだ衛星放送で夜中にやってたやつ。
途中まで頑張ってたんだけど、眠くて最後まで見られなかった。
えーと、どっちが勝ったんだろ…。
「何してるんだ」
夢中になって読んでたら、足の方から急に声がした。
「勝手に読んでるよ、悪いけど」
本から目を離さないまま、俺は答える。だって今いいところだし。
「読むのは構わないが、服を着てからにしろ」
扉が閉まる音。ああ、こういう展開だったのか、あの試合の後半…。
「越前」
うん、聞いてる。そうか、やっぱこのサービスゲームを落としたのが、
「…越前」
声がワントーン低くなった。そろそろヤバイかも。
ホトケの顔も三度までって言うし。
まして、この人はホトケとは程遠い。
手を伸ばして、床にぬぎちらかした自分の服を探り当て、
拾い上げてもぞもぞ着込む。シャツは、汗の匂いがする。
ここまで急いで走ってきたから。でもそれは秘密。
「いつまでもだらしない格好でいるんじゃない」
手に持ってるトレイから、折り畳みテーブルにコップを移してる。
「いいじゃん別に。他に誰もいないんでしょ」
中身は麦茶だ。なんでかこういうところはマメだ、この人は。
「ていうかさ、なんですぐ動く気になんの?ダルくない?」
顔を覗き込んだら一瞬目があったけど、すぐそらされた。
あ、ちょっとだけ顔が赤い。
「別に…そんなことは…」
ボソボソと、それでも律儀に返事がくる。
黙ってたってイイのに。こういうとこ、面白くて好き。
「ふーん…鍛え方が違うってヤツ?」
今度は、黙った。虐めすぎたか。
ご免、知ってるよ、照れくさいからすぐ出てっちゃうんだよね。
でもそこまで追い詰めると可哀想だから、言わないけどね。
「あー麦茶ウマイ。ね、この試合、アンタ見た?」
さっき読んでたページを広げて、適当に話をそらしてあげる。
「ああ、見た。いい試合だった。お前、見て無いのか」
急にいつもの顔になるし。ホントにテニスが好きだね。
「途中まで見たけど…夜中の中継だったじゃん?眠くて挫折」
ふ、とほんの少しだけ笑う。ああ、この顔も好きかも。
「ビデオに、撮れば良かったじゃないか」
俺の手から雑誌を取り上げて、ページをめくる。
「ビデオで見たってつまんないでしょ」
テニスの試合はやっぱリアルタイムで見なきゃ、そう言ったら、
また、少しだけ笑った。
お前らしいな、と俺の好きな台詞付きで。

麦茶のコップが、汗をかいてる。
目の前の人は、もうすでに雑誌に夢中だ。
俺は水滴をコースターに落としながら麦茶を飲む。
もう一つのコップは、中身がほとんど減ってない。
とても静かだ。時々、シシオドシ(って言うの?あれ)の音がする。
急に、昨日観たドラマを思い出す。
『仕事と私と、どっちが大事?』

「…ねえ」
呼ばれてあげられた顔が、一瞬すまなそうな表情になった。
「ああ、悪い…なんだ」
や、それは別に気にしてないからいいんだけど。
「ねー…オレとテニス、どっちが大事?」
突然予想もしなかったことを聞かれて、驚いている。当然か。
「…なんだって?」
俺は、相手の目をじっと見て、もう一度繰り返す、
オレとテニスとどっちが大事?
「馬鹿なことを聞くんじゃない」
あー怒ってる怒ってる。まあ、それも当然だけど。
「馬鹿なことじゃないよ。答えてよ」

ホントは、答えてくれなくてもいい。
だって、俺は答えを知ってる。
アンタが大切なのは、そう、

「…テニスだ」
俺の目をまっすぐ見て、言った。
うん、知ってる。
意地悪で言ってるんじゃなくて、本当の事だって、わかってる。
「そりゃそうだろーね」
笑って答えたら、少しだけ困ったような顔になった。
ご免、別に嫌味で言ったんじゃないよ、だって、
それが、俺の望んでる答えだから。
もし、もしも、俺の方が大事だなんて言われたら、
俺はきっと、アンタを嫌いになるだろう。
アンタは絶対嘘をつかない。
他人にも、俺にも、自分にも、絶対に嘘をつかない。
優しさなんて、そんなずるい言葉で誤魔化したりしない。

だから好き。
きっとみんなも、だからアンタの事が好きなんだよ。
アンタは、知らないだろうけど。

「…でも、お前だってそうだろう?」
え、何の話?ああ、テニスね。
「そうだよ、俺も多分アンタよりテニスが好き」
だから、俺も誤魔化したりしない。
誤魔化す必要はない。
そんなことで離れてしまう人なら、俺はいらない。
「それでこそ越前だと、言うべきだな」
でも、そう言って笑ってくれると、嬉しいのが悔しい。
偉そうなこと言ってるけど、俺もまだまだだね。
「…俺そろそろ帰るよ、親父がなんか勘ぐってるぽいからさ」
にやけそうになる顔を見られないように、立ち上がる。
親父がなにか気付いてるらしいのは嘘じゃないけど。
尤も…まさか、相手が男だなんて、思ってないよなあ。
そう考えると、ちょっとだけ、可笑しくなった。
「そうか…じゃあ、バス停まで送ろう」
って、どうして引き止めないかなあ…ホントにこの人は。
「あのさ、こういう時フツーは、引き止めるもんじゃないの?」
困らせてやろうと思って意地悪く言ってみる。
ちょっとは慌てるだろうと思ったのに、
「引き止めてほしいのか?」
チクショウ、笑ってる。悔しい。
「別に。また押し掛けるからいーよ。送ってくれなくていい」
玄関で靴を履いて、扉をあける。
空は既に暮れかかってて、風が少し冷たい。
「…」
振り返ると、何か言いたそうにしているけれど、何も言わず、
「気をつけて、帰れ」
それだけ。
「うん。じゃーね」
俺もそれだけ。
バッグを背負い直して、俺は走り出す。
あとはもう振り返らない。
でも、きっと俺が角を曲がって見えなくなるまで、
あの人はあそこに立っているはず。

だから、俺はテニスの次でもいいんだ。



END


なんだかわかりづらい話ですんません。
部長の部屋でハダカで本読んでる王子、ってのが書きたかっただけだったり。
(このシチュエーション萌え野郎め…!)



モドル
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