Deep Sea/Text






西瓜と花火と




「夜分遅くにお邪魔しまして・・・」ペコリと頭を下げると大石は
手にしていた菓子折を南次郎に渡した。
「いやあ、堅苦しい挨拶はいいって、餓鬼共は境内の方に居るから
まあ、よろしく頼むわ。えーっと・・・」
「あ、大石です」
「大石君ね。手みやげまで悪りぃね」
「いえ、それでは」
「おぅ!ハメ外してきな」



石段を昇り、街灯の光も届きにくい木の間を
慎重に歩いていると、「おおいしぃ〜」の声とともに
背中にドスンと重みがかかった。
「英二、みんな来てるのか?」
「ううん。手塚がまだ。着付けに手間取ってんのかな?」
「着付け?」
「うん、浴衣で来いって言ったから。大石にも言えばよかったなー。
浴衣で花火って、ちょっと粋じゃん?大石の浴衣姿も見たかったなぁ」
「ははは、それじゃ今度のお祭りの時にでもね」
「そだね。約束!」
どちらともなく、顔を寄せようとした
その時、カランと背後で下駄の音が響いた。


「悪い、遅くなった」
「いや、オレも今着いたばかりだよ、手塚」
「ちゃんと着てきてくれたんだね〜、似合うじゃん。風呂上がりだし」
菊丸はクスクスと笑いながら、なんで、風呂入ると外に出られないのか
質問してみると、「また汚れる」と即答された。


「ところで、手塚。その荷物はなんだ?」
浴衣とは不釣り合いの紙袋からは、何やら和風の生地がチラリと覗いていた。
「これか?これは・・・」と言いかけた時、遅いっスよ、先輩方!と
少々ご立腹のリョーマが姿を見せた。
「越前、これ」と、先ほどの紙袋をそのままリョーマに手渡した。
「なんスか?これ??」
ガサガサと袋の中をかき回しながら、境内に向かう。
「・・・俺が小学生の時に着ていたものだ。母が持って行けと言うので持ってき
た」
紙袋から出したそれは・・・紺色に黄色の格子模様の甚平だった。


「ぶぶっ!手塚、そんなん着てたんだ、よかったなおチビ!」
大石の肩に掴まりながら、必死に笑いを堪える菊丸を余所に
リョーマは手塚のお下がりの甚平を握りしめて立ちつくしていた。
「これ、俺にくれるの?部長??ホントに!?」
「お前さえよければ・・・な」
「え、あ、そのよいっス!全然よくないわけないっス!!」
頭に血が上って混乱気味のリョーマを落ち着かせる様に、
大石は「着てくれば?」と声をかけた。


猛然と走り去る越前の後ろ姿を見送りながら、「知っててやってんのかねぇ」と
菊丸が呟くと、「そお願いたいけどね」と大石は溜息をついた。
張本人の手塚は、タライにゆらゆら浮かぶ西瓜を、指でつつきながら眺めていた。




シャリッとした糊の感触が残る袖に腕を通し、
菜々子さんに着せてもらう。
「リョーマさん、よく似合いますよ」
「よお、どうしたんだ、それ?」
「・・・もらった」
「ふぅん、俺とお揃いみたいだな、おい」
「ぜ、全然違うぢゃねーかよっ!糞オヤジ!!」
くすくすと笑いながら、菜々子さんは
「『クニミツ』さんて方から頂いたみたいですよ、おじさま」と
やんわりと間に入ってきた。


「どうしてわかるの?菜々子さん?」
一瞬、その名前にドキリとしたが、努めて冷静に聞いてみた。
「ここに、縫い取りがしてあるんですよ」
捲った裏側には、白い糸で、『クニミツ』とカタカナの文字が
目に留まった。


−本当に部長が着てたんだ・・・。
「あ、ありがと菜々子さんっ、俺、行くね」
引ったくるように背中を向け、ガタガタと下駄箱から
下駄を出すと転がる様にリョーマは外に出ていった。
「んだありゃ?」
「可愛いものですねぇ、おじさま。憧れの先輩って感じかな?」



ゾクゾクする高揚感に合わせて、
履き慣れない下駄で走り抜ける。
頬の熱さは、決して夏のせいばかりじゃない。
夏の暑さと頭の火照りで、俺を見失ってしまいたい。
静められるのは、アンタしかいないんだ。


なのに・・・・なんで。
なんで・・・・。


「・・・ん?喰うか?」
もお、西瓜食べてんスかぁ!?



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