Deep Sea/Text






西瓜と花火と




パチパチと爆ぜる淡いオレンジの花。
弱々しい風に、ふるふると心細げに震える明るく小さな柔らかい球体。
ポトリと地面に落ちると、わけもなく心が痛い。
「ショボイ花火だな、オヤジ」
「まあ、そう言うなって。そのわびさびを理解してこそ日本人だぞ、青少年!」
「はいはい。で、次はどれやんの?」
「おー、これこれ。落下傘!」
「パラシュートって書いてあるけど?」
「ごちゃごちゃ五月蠅ぇなぁ。行くぜ!落下傘取った方が勝ちだかんな」
「・・・勝ちって、何?」
「男は何時でも真剣勝負ってことさ」


パァン!と光の玉が火薬の匂いと共に夜空に上がる。
勝負とあっては、負けるわけにはいかない。
特に、この「オヤジ」相手にはどんな事でも負けたくない。
目を凝らして、必死に暗闇から現れるはずのパラシュートを探す。
ぼんやり見えたピンク色の傘らしきものは、上空で風に煽られ
フワフワと道路に向かって流れていった。
「ちっ、いつもなら真っ直ぐ降りてくんのによっ!」
「オヤジの予想なんて、当たった事あるかよ!」
「黙れ!糞餓鬼!」


痛ぇ!と塀の向こうから聞き覚えのある声がした。
玄関から回ってみると、西瓜を手に提げ、パラシュートを
訝しげに睨みつけている菊丸の姿があった。
「菊丸先輩!」
「なに?おチビんトコ花火してんの?」
握っていた何本かの花火を見つめて聞いてきた。
しかし、そんな事はお構いなしに
「それ、それ、俺に渡して!」パラシュート目がけて手を伸ばす。
「あん?これ?にゃんで?」
「いいから!早く!」
「そう言われるとイヤだなぁ〜、どうしようかな〜」
菊丸は微妙に届かない位置まで持ち上げて、意地悪く笑って見せた。
「悪いけど、オヤジ様の勝ちってトコだな」、ひょいと菊丸の手から
パラシュートを奪うと、「まだまだだな」と南次郎はリョーマに向けてにやりと
笑った。



「そおそお、おチビのトコで花火してんの!大石も来ない?
西瓜持ってそっち行こうと思ってたらさぁー。どうせなら
大勢の方が旨いじゃん?来る?わかったー、んじゃ後でねん」
ピッ!と電話を切ると、菊丸はリョーマに
「・・・手塚、呼ぶ?」と意味ありげな顔を向けた。
「・・・部長は・・・呼ばなくていいっス」
にやにやと携帯を揺らしながら、まったく素直じゃにゃいなーと
そんな意見を無視して電話をかけた。


「こんばんは、菊丸ですけど国光君、居ますかー?」
手塚、携帯持ってないんだよねーと、ブツブツ言う菊丸の横で
『国光君!?まあ、確かにそうだけど、国光君・・・い、言ってみてぇ』と
リョーマは拳を握りしめていた。
「あー、手塚ぁ?俺、英二。今からさあ、越前の家で花火やるんだけど
手塚も来ない?・・・お風呂入ったから駄目?何それ。いいから来なよ。
おチビが呼べってうるさいからさぁ〜。西瓜も冷やしてるよん。
風呂上がりなら、浴衣着て来なよ、ゆ・か・た。んじゃ、待ってっから!」

「き、菊丸先輩!俺、呼べなんて一言も!」
「んー?言ってないけど、来て欲しいって顔してたよ」
「え、あの・・・・そんな顔、してないっスよ!」
「はいはいっと。まあ、押しに弱い手塚の事だから絶対に来るよ」
よかったな、おチビ!とぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。




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