Deep Sea/Text






恋は盲目




英語の授業はつまらない。
教科書の英文は意味不明だし。
英語の教科書なのに日本語の方がたくさん書いてあるし。
挿し絵もダサイ。子供向けの絵本みたいだ。
だからってわけじゃないけど、どうしても眠くなる。
ウトウトしながら窓の外を見ると、外はすごくいい天気で、
どこかのクラスの男子が体育の授業をやってる。サッカー…違う、ハンドボールかな。
あーあ、うらやましい。あ…緑のラインが入ったTシャツだから、3年生…?
急に、目がさめる。
何組なのか確かめようと思って目を凝らしてたら、突然先生に名前を呼ばれた。
「越前!よそみするんじゃない!好きなコでもいるのか?外に」
クラスのみんながどっと笑った。
もう、うるさいなあ…いるかどうか、探してたんだよ。
「じゃあみんな、さっき言った通り、ちゃんと次の授業までに宿題をやってくること。人に見せてもらったら駄目だからな」
宿題…?まずい、全然聞いてなかった。あとで堀尾に…
「おっと、越前、お前の宿題をまだ言ってなかったな」
「え?俺だけ違うの?」
「やっぱり話を聞いてなかったな。みんなは教科書の英文を訳してくるんだが、越前にはそれだと簡単すぎるだろう」
まあ、そりゃそうだけど、ていうか、『やっぱり』って何。
「越前は、なんでもいいから英語の曲の歌詞を、自分なりに訳してもって来い」
「…それって、教科書とどう違うんスか」
「教科書の英文は日本語にしやすいからな」
「つまり、それって、日本語の宿題?」
「まあ、半分はそうだな。」
…悔しいけど、なかなかうまいと思った。「じゃあ、少し早いけど終わりにする」っていう先生の声を聞きながらまた外を見ると、そこに探している人がいた。
やっぱり1組だったんだ…ちぇ、邪魔されなければもっと早く見つけられたのに。
クラスのみんなが騒いでいる中、俺は休憩時間になってグラウンドの生徒達が校舎に消えていくまで、ずっと外を見ていた。



「ああ、その宿題ね、あの先生毎年必ず出すんだよ」
「そうなんスか」
「もっとも、本来は一年生のこんなに早い時期には出さないけどね」
放課後。
テニス部の練習が終わったあと、部室で何気なく例の宿題の話をしたら、大石先輩がそういって教えてくれた。
「メインは辞書を引かせることにあるんだろうけど…俺は結構面白いと思うよ」
「でもサ〜、歌詞って訳しにくいんだよにゃ〜」
「菊丸先輩は、何の曲にしたの?」
「ビートルズ!わりと簡単だから!」
「簡単ってなあ…結局俺が殆ど見てやったんじゃないか」
「あにゃ〜、そうだっけ?」
「でもそれって、歌詞カードとか見たら一発じゃないですかね?」
「桃らしいな。でも、うますぎてすぐバレるよ。桃は、あたったことないのか?」
「一年の英語は違う先生だったんですよ、俺。でも、越前なら楽勝だろ?そんなの」
「んー。でも俺、英語の曲は意味も何もそのまま英語で入って来るから、逆に難しいんスよね…」
「そうかもしれないな。寝言も英語で言うクチなんじゃないのか?」
「さあ、自分の寝言なんて聞いたことないっス」
「ハハハ、そりゃそうだ」
「あ〜それにしても腹減った〜。桃ー、帰り、なんか食ってく?」
「いいっすね!そういうことだから越前、早く着替えろ」
…いつのまにか俺も行くことになってるわけね…。まあ俺も腹減ってるからいいけど。
「当然、菊丸先輩の奢りっスよね?」
わーなんだそれー、と騒ぐ菊丸先輩達の後について部室を出た。

外は、まだ明るい。6月に入って、急に日が長くなったような気がする。
昼間の熱気がまだ残っていて空気は纏わりつくように暑い。
最初宿題の事を考えていたはずの俺の頭の中は、いつのまにか、先輩に奢ってもらう(予定の)冷たいもののことでいっぱいになっていた。




今日、テニス部は休み。なのに、部室に忘れ物をしたのに気がついた。
カギは大石先輩が持ってるんだっけ…いや、でも、ウチの部のことだから、誰か自主練してて空いてるかもしれない。
そう思って直接部室へ行くと、予想通りカギは空いていた。
けれど中にいたのは、予想外の人物だった。
「越前?どうした、今日は休みだぞ」
「いや…忘れ物、取りに来ただけっス」
「そうか」
別に、何もやましいことないし。
今日は練習じゃないから走らされることもないんだけど。
でも、この人と二人だけでいると、緊張する。
俺らしくないってわかってるけど。
こればっかりは、どうしようもない。
つとめて普通を装いながら、ロッカーを開けて忘れ物をテニスバッグに入れた。
何か話そうかと思ったけど、ちょうどいい話題も浮かばないし。
そんな時、無理矢理しゃべっても、わざとらしいだけだよな。
いいや、もう帰ろ。
「そんじゃ失礼しまー…」
「ん…、待て越前。これ、お前のか?」
「…え?」
部長が手にしてる、ルーズリーフの切れ端…。俺のじゃん!
無造作にテニスバッグにつっこんであったから、さっき開けた時落ちたに違いない。
「……」
読んでるし!
「部長、それ、俺の!英語の宿題っスよ、返して!」
「宿題…?ああ、昨日話してたやつか」
昨日って。部長、あの話聞いてたのか…。まるで無関心って感じだったのに。
斜め上に突き出した俺の手に、ルーズリーフがぱさっとのせられた。
「…どもッス」
「そうと知らなかったら、とても宿題には見えないな」
「…はあ」
心なしか、部長の声色には微妙に笑いが含まれているように感じる。
自分の顔が熱くなるのを感じる。
よりによって部長に見られるなんて。恥ずかしい。
書いてみて、やっぱりこれを提出するのは止めようって思って、
でもなんだか捨てる気にもならなくて、持ってたんだけど…。
こんなことなら、サッサと捨てればよかった。
「日本語にするのは難しいとか言っていたのに、うまいじゃないか」
「え」
「それ、提出するのか」
「…しないッスよ。カッコわるいし」
「そうか?良く出来てると思うぞ」
部長、つまり、全部読んだな…。くそっ、完璧にからかわれてる。
恐る恐る顔を見ると、やっぱり、少し笑っているようだ。
悔しい。チクショウ。

でも、アンタは知らないだろうけど。
これ、アンタのことを考えながら書いたって言ったら、
一体どんな顔するだろう?
…もちろん言わないけど。そう、まだ、言えない。
「じゃあ、俺は、失礼するッスよ」
「ああ、気をつけて帰れ」
急にいつもの声になって、部長は言った。
ほっとしたような、ちょっと残念なような、そんな気持ちで、部室を出た。

外は、今日も暑い。何もかも溶けてしまいそうなくらい暑い。
蒸した空気は境界線を無くしてしまう。空も地面も家も木も、
みんなふにゃふにゃになって溶けて混じりあってしまうような気がする

熱にうかされている俺の体も、一緒に溶けてしまえばイイ。





恋は盲目
そこにはただ哀しみしかなく
明日と言う日もない、あなたが去った日から
恋は盲目
冬へと移り変わる今あの夏の日の輝きを
どうやって思い出せばいいのだろうか

思い出を忘れてしまうためには
あとどれだけの時間があればいいのだろう
本当はわすれたくはないのだけれど
出会ったその日から
ずっとこの身を燃やし続けてきたのだから

恋は盲目
そこにあるのはただ無慈悲だけ
貴方は去り、そして私を傷つける
恋は盲目で果てしなく
そして私は昨日という日のために
ここでただ緩慢な死を待っているだけ

朝泣き声で目がさめる
誰かが私のために泣いているのだろう
でも、もう終わってしまった
あのひとは去ってしまった
だからもう私をそのままにしておいて

恋は盲目
そこにあるのはただ貴方の無関心と
優しさと、それに伴う一瞬の痛み
恋は盲目
冬へと移り変わる今あの夏の日の輝きを、
どうやって思い出せばいいのだろうか





『恋は盲目』
その言葉が好きで、この曲を選んだのだけど、
結局、俺はルーズリーフを破って捨てた。
クラスで読まされたりしたら最悪だし。
それに、やっぱりらしくない。俺らしくない。

そう、俺は、
慈悲なんていらない。明日なんていらない。
無関心だっていい、アンタがいてくれればそれで何もいらない。
思い出を懐かしんだりしない、でも忘れたりしない、
去ってしまったら追いかけるだけ。ただそれだけ。
ずっと、盲目でいたいだけ。

ずっと。



END


言い訳(見苦しい)。

椎名林檎のアルバムから思いついた話。
リョーマが使ってるのはジャニス・イアンの『Love is blind』です。…エート、歌詞の訳はハッキリ言ってめちゃくちゃです。多分。てか絶対!
訳と言うより、ただのイメージになりさがってます。
でも、原文載せるわけに行かないし、しょうがないんだよう…。
自分のセンスの無さを呪いたい気分でいっぱいです。
王子じゃなくて、俺の英語力の方が恥ずかしい…。
当初は、不二塚のネタにしよっかなと思ってましたが、痛い話になりそうなので
やめました。
ジャニスのファンの方、ゴメンナサイ。切腹ですか?



モドル
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