Deep Sea/Text






Inside Call




―かける、かけない、かける…

 夕食の後、もう小一時間もリョーマは電話の前でうろうろしていた。時折リビングから顔を覗かせてにやにやしている南次郎を目で追い払いつつ、受話器に手をのばしてはまたひっこめる、を繰り返していた。
 迷っている相手は、肘と肩の治療のために九州へ行っている手塚だ。桃城にもらった手塚の携帯電話の番号を一度捨てたリョーマだったが、なぜか、御丁寧に毎日ロッカーに電話番号が記されたメモが入っている。誰が犯人なのか(レギュラーの中の誰かに決まってるのだが)突き止めようと思ってもうまくいかず、見つける度に捨ててはいても、さすがに毎日なのでいつのまにか番号そのものを覚えてしまった。
 強がってみてもやはり声が聞きたいのが本音なので、ここ数日は毎晩電話の前で挙動不審なリョーマなのだった。

―別に、話しなくたっていいよな…部長が出たらすぐに切って、声だけ聞けば。

 散々迷った挙げ句そんな風に(いささか甘い)結論を出して、リョーマは思いきって受話器を取り、すっかり頭に入ってしまった番号を押した。
 プルルル、プルルル、と小さなコール音が耳に響く。
 とりあえず、手塚がもし出たら間違い電話のふりをして切ろう、そう思った途端、

「はい、手塚で…」
「…!」

 がちゃり、とリョーマは思わず受話器を置いてしまった。まさかこんなにすぐ出るなんて思わなかったのに!ドキドキと打つ心臓をなだめようと深呼吸した途端、たった今リョーマが切った電話のベルが鳴り、リョーマは文字どおり跳び上がった。

「…まさかね…」

 まさかそんなはずはと思いながらリョーマが電話を見つめていると、リビングで南次郎が「そこにいんならさっさと取れ、糞餓鬼!」と怒鳴っているのが聞こえ、仕方なく受話器を取った。すると、

「越前!自分からかけてきておいていきなり切るとはどういう事だ。失礼だろう」

 何の前置きもなく、怒られて、さらに動機が激しくなった。
 どうして。

「ぶ、部長…えっとその、なんで俺がかけたって…」
「やっぱりお前か」
「え?もしかしてカマかけたってやつ?」

 憮然としてリョーマが呟くと、手塚の声が少しだけ嬉しそうになった。

「そんなわけないだろう。お前携帯電話持ってないのか」
「持ってないっすよ。そんなの必要無いし」

 そうリョーマが返すと、手塚の声がさらに少し嬉しそうになった。

「携帯電話というものはな、名前と番号を登録しておくと、かかってきた時に相手が分かるようにできているんだ」
「悪かったっすね、携帯の仕組みも知らなくって!」

 手塚の言葉はひどく得意げで、リョーマは軽くむくれたが、すぐに可笑しくなって声を出さないようにして笑った。そういう手塚だって、携帯を持ったのはつい最近のくせに…。おそらく、手塚も周りの人にからかわれたり教えてもらったりしたのだろう。それを、自分よりさらに知らないリョーマに自慢したかったに違いない。

 「もう、アンタ可愛すぎ…!」
「何だって?」
「いや、なんでもないっすよ」

 思いがけず手塚の可愛い一面を見れて、さらに言えばなんだかんだと結構喋っているし、リョーマは得した気分ではあったが、このままやり込められたままではやはり悔しい。その時、リョーマはある事に気が付いた。

「俺全然知らなかったっすよ、そういう風になってるなんて」
「ああ、そうだ」
「へえ…。でもそれじゃあさ…」

 リョーマは、手塚に見せられないのを残念に思いながら、会心の笑みを浮かべた。

「それじゃあ、アンタの携帯には俺の名前と番号が入ってるってことっすよね?」
「…え?」
「だってそうでしょ、すぐ俺がかけたってわかったんだから」
「それは…」

 明らかに手塚の声が狼狽えたことに満足を覚えながらも、どうせだからもう少し苛めてやろうと、ついリョーマの悪いクセが出てしまう。

「おまけにすぐかけなおしてきてくれるなんて、俺、すっごく嬉しいッスよ?」
「べ、別に…。いきなり切られたら、誰だって驚くだろう」
「答えになってないよ」
「それに、断っておくがお前の番号だけが入ってるわけじゃないぞ、緊急連絡用に他のメンバーの番号も…」
「はいはい、そういうことにしとくよ、部長」

 とうとう堪え切れずに、リョーマは声を出して笑ってしまった。手塚は少し黙っていたが、やがて少し笑った。その声は耳と心に暖かく響いた。

 この機械の向こうにいる人にも届くようにと願いを込めて、リョーマは受話器に小さくキスした。

 END


シティで出したコピ本、『Out of Call』リョーマサイドの別バージョン。
テキスト倉庫の方に置いてあったのですが、最近更新してないのでこっちに。
ちなみに本編とは180度違っちゃってますが。パラレル?(違う)
あたしはリョ塚に関しては、書く時は緊張感のある関係が好きなんですが、
他所様のかわゆくラブいリョ塚を読むのも大好き。
で、たまにはそんなのを!…って思うんですが…ね。この程度。しゅん。
これじゃただのバカップルだよ。まああの二人はそんな生き物ですか(特に手塚)



モドル
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