Deep Sea/Text






イチゴ




「越前、イチゴ食わねえの?」

日曜日の午後。
ハードな練習を終えた育ち盛りの中学生…河村、菊丸、不二、桃城、そしてリョーマの5人は、空きっ腹をなだめるべく、連れ立って近くのファミリーレストランへ来ていた。
それぞれ思い思いの物を注文し、リョーマは大きなパフェを頼んだ。その一番上に乗っていたイチゴが、食べられないままアイスクリームのなかに沈んでいるのを桃城がめざとく見つけたのである。

「ホントだ。もしかして好きなものは最後に食べるタイプ?」
「特に意識した事ないッスけど…」
「えー、やっぱ好きなものはソッコー食べるのが基本でしょ!ショートケーキのイチゴとかさあ!」
「そう?俺は最後に食べるよ、ケーキのイチゴ」
「タカさんはひとりっこだからさあ〜。俺んち兄弟多いから、早く食べないと兄ちゃんたちにとられちゃうもん」
「あーわかるっすね、それ!俺も妹に狙われるから先に食いますよ」
「桃先輩って兄弟の中で一番弱そうですもんね」
「越前てめえ、俺の事先輩だって思ってねえだろ!」
「にゃはは…ねえ、不二は?」

それまでニコニコしながら黙って話を聞いていた不二は、話題を振られてサンドイッチを食べる手を止めた。

「僕?…うーん、僕もあまり意識した事無いかな。でも、どっちかって言われれば、最後に食べる方だね」
「不二んちはオヤツの取り合いなんてなさそうだもんなー、いいなー」
「越前もひとりっこだろ?」
「兄弟はいないッスけど…」

兄弟はいないけど、大きな子供なら、家にひとりいる。
と、リョーマは思った。

「でも、俺は盗られる前に人のを盗る側なんで…急いで食べたりはしないッスね」
「ハハハ、越前らしいなー」

河村の言葉が締めくくりとなって、そのあとは昨日のTVの話題になった。





「ちーっす」

月曜日の朝練習。
カルピンに思いきり顔を踏まれたせいでいつもより早く目が醒めてしまったリョーマは、そのままいつもより早く部室へ来た。
おそらくもう来ているはずの大石の姿は見えず、部室は無人である。

(早く来すぎたかな)

リョーマはひとつ欠伸をし、ドサリとテニスバックを床に下ろすと、学生服を脱いでウェアに着替えはじめた。
あらかた着替え終わって帽子をバックから取り出した時、背後でドアが開く音がした。振り返るのが面倒臭く、リョーマはしゃがみ込んだまま声だけで挨拶をした。

「ちーっす…」
「越前か?今日はずいぶん早いな」
「え?あ…オハヨーゴザイマス。部長こそ早いっすね」
「お早う。だが別に早くは無い、いつもどおりだ」
「あ…そーっすか…」

部室に入って来た手塚はまっずぐ自分のロッカーの前へ行き、テニスバックと学生カバンを下ろすと、黙って着替えをはじめた。
その姿をチラチラと横目で盗み見ながら、リョーマはちょっと得した気分になって、知らず顔がにやけた。
こういうの、なんていうんだっけ?早起きはナントカの得とかなんとか。

(まあ、なんだっていいか、得したんだから)

考えるのが面倒になってそう結論付けたリョーマは、ふと昨日の話を思い出した。手塚とふたりっきりは当然嬉しいが、話題に困るのもまた事実。今のように不意打ちだとなおさらである。単純に興味もあって、結果それを持ち出す事に決めた。

「ねえ部長」
「何だ」
「部長はさ…ショートケーキのイチゴって最初に食べる?最後に食べる?」
「…なんだって?」

思い掛けない質問に、ジャージを着る手塚の手が止まった。眉間に一層しわを作り、まじまじとリョーマの顔を見おろした。

「だから、ケーキのイチゴ」
「あまりケーキは食べないんだが」
「じゃあなんでもいいすけど、要するに一番好きなものを最初に食べるか最後に食べるかってこと」
「…普通に食べるが…?」
「普通って?」

じり、とリョーマは一歩手塚に近寄った。
吊り気味の大きな目で覗き込むようにして見つめられ、訳も無く手塚は少し慌てた。

「だ、だから…別に最初とか最後とか、そういうのは考えた事がない」
「ふーん……」
「なんでそんな事を聞くんだ?」
「別に…」

(まあ予想通りっていえば予想通りか)

だから難しいんだよねこの人は。
本当に、本人は何事においても何の意識もしていないのに、何故こうも周りの人間を引きつけるのか…。虫よけすんのも大変なんだけど…
リョーマは思わずふーっとため息をついた。
なんとなく居心地が悪くなって、その場を取り繕おうと、手塚は言った。

「そういうお前はどうなんだ」
「俺?俺はね…」

リョーマはにやりと笑って、さらにもう一歩手塚に近付いた。
実は随分と迂闊な質問をしてしまったのだが、もちろん手塚はそんな事に全く気付かない。

「俺はね、普通に好きなものなら普通に食べるけど…」
「けど…?」
「一番好きなものは、最後にゆっくり食べるよ」
「……」
「楽しい事は、最後にとっておいた方がさ…ねえ?」
「え、越前。あまり近付くな」
「なんで?」
「なんでって…その…」
「……ヘーキだよ、何もしないから。今言ったでしょ?お楽しみは、最後にとっておくって」
「……え?」

リョーマがさらに一歩近付き、二人の距離がゼロに近くなった、その時。

「おはよう」

絶妙なタイミングで勢い良く扉を開けて入ってきたのは、不二だった。

「お、お早う不二。お前も今日は早いな」
「チーッス」
「おはよう、手塚、越前君。随分と楽しそうだねえ。何の話?」

助かったと言わんばかりの手塚と、舌打ち寸前のリョーマをいつもの笑顔を浮かべたまま交互に見ると、不二は二人に近付き、荷物を静かにベンチに置いた。

「別に。昨日の話っすよ」
「昨日…ああ、ケーキのイチゴの話?ふーん、で、手塚はどうだって?」
「普通に食べるそうッス」
「フフ、手塚らしいね」
「そうっすね」
「……一体なんなんだ、お前達は」

困惑する手塚をよそに、ふたりは笑顔のまま向かい合った。
こころなしか部室内の温度が少し下がったようだ。

「越前君、君はたしか急いで食べたりはしないんじゃなかった?」
「そーっすよ。でも、盗られる前に盗っとかないと。それに、奇襲は俺の得意技なんで」
「なるほどね」
「不二先輩も、最後に食べるんですよね?ドーゾ、他の物からゆっくり食べてて下さいよ」
「うまい事言うね。でも越前君、なんで僕が好きなものを最後に食べると思う?」
「さあね」
「それはね…」

それまでずっと笑っていた不二の目が、すっと開いた。

「邪魔者を排除する自信があるからだよ」
「……」
「僕の得意技は、カウンターだからね」
「なるほど…ね」

(たかがイチゴの話で、なんでこんなに熱くなってるんだ…?)

わけがわからないまま、場の雰囲気にのまれた手塚は動く事が出来ず、いわゆる三竦み状態で3人はしばらくそのまま固まっていた。
…やがて、リョーマは先ほどからずっと手に持ったままだった帽子をかぶると、ふふんと不敵に笑い、そして言った。

「お楽しみは…これからっすよ」
「そうだね…期待してるよ。イチゴ、甘いといいね?」
「俺は、少し酸っぱい方が好きッス」
「クス…そう…。まあお互い頑張ろうね」

…大石が入ってきて、やっと手塚が動けるようになったのは、それから5分後のことだった。



END


ユキ様3000ヒットリク、リョーマと不二と手塚が絡む話。ということで。
こ、こんなかんじでよろしかったでしょうか〜?
書いてて思ったのですが、

イチゴを最後に食べるチーム→攻めチーム
イチゴを最初に食べるチーム→受けチーム
手塚→論外

に、見事に分かれた気がします(受け攻め分けはヒダリ基準)。
尤も、タカさんは微妙かな。出てこなかったけど、乾もきっと最後。
『このイチゴは栃木産の…』とか分析しながら、ゆっくり食べる。
薫は、きっと最初に味わって食べる。受けだから。
大石は、菊丸にあげちゃうから、ある意味論外。
カルピンは攻めだけど、自分のを先に食べてさらに南次郎のを盗って食べる。
(当然、南次郎は先に食べるチーム)
ちなみに、私は最後に食べます。…攻め…?

ユキ様、リクありがとうございました〜!



モドル
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