Deep Sea/Text






読書




五月の陽射しはうららかに眠りに誘う。
木陰の下の柔らかな芝は、まさに絶好の惰眠ポイントだ。
近くに読書中の人影があるが、構う事はない。
静かにしていてくれれば、それでいい。

リョーマは、まだ真新しい制服の背中に、芝がつくのもお構いなしに
コロリと横になった。
「もお、駄目。・・・限界。」
誰ともなしに話かけ、スースーと軽い寝息を立てた。

「これ、越前だよね?」
「そおみたいだな。」
「つついてみる?」
「…やめとけ、不二。」
声の主は、さほど興味も無さそうに読みかけ中の文庫に視線を戻した。

「でも、手塚。このままじゃ風邪ひくんじゃないかな?
いくら今日は温かいからって、まだ五月なんだし。」
「本人の自覚の問題だ。」
「そお?」
「そうだ。」
「ふーん。」

ックチッ!

「ほら、やっぱり。寒いんだよ、さすがに。
しょうがない、僕の上着でも・・・」と半分脱ぎかけたが
「おまえが風邪をひいたら、俺が困る。」と制止する。
「ちょっと、持ってろ」と、文庫を不二に投げて渡し、
自分の上着を、頭からスッポリと被せた。

「これで安心か?」
「でも、手塚が寒いんじゃ・・・。」
「俺はいい。」
また、黙々と読書を続ける。
「ふふっ、ありがと。」
「・・・・・・」
「何、赤くなってるの?」
「…五月蠅い。」少し、そっぽを向く。

「てーづーか」と甘える様に、背中から抱きついてみる。
「…なっ!越前が今起きたら、どうするつもりだ!」
「どうしよーかなー。」ギュッと力をこめる。
「ふ、不二!痛いって。」
「……越前、永遠に起きなければいいのになぁ……なんてね。」

その声に反応したのか、黒い小さな固まりが
ゴソゴソと少し動いた。

「あ、やっぱり生きてるね。」
「あたりまえだ。」

ゴソゴソとゴソゴソと移動する固まりは、手塚の太股のあたりで
ピタリと止まると、おもむろに頭を乗せてきた。

「……手塚、殴ってもいいかな?」
「俺はテニス部から犯罪者は出したくないぞ。」
「加減するから。」
「まあ、いいから少し寝せておけ。」

オレはとっくに起きていた。
部長のガクランで。
まるで、すべてを包まれているように
それはとても幸せで、胸がつまった。

不二先輩との事は知ってる。
それでも部長を「欲しい」と思うのは、オレがガキだから。

部長が拒否しないのも知ってる。
それは、オレを無視できないから。

「・・・越前君。起きてるでしょ。」
「・・・寝てる。」
「ふふっ、起きられない様にしてあげてもいいよ。」
「このまま、ここで寝られるなら、それでいい。」
「そこは、僕の場所なんだから、そろそろ退いてくれない?」
「・・・やだ。」

そこで、次の授業の予鈴が鳴る。
とりあえずはここで終了。

「ほら、行くぞ。二人とも。」
ポン!ポン!と二人の頭を文庫で、軽く叩きながら
自分のガクランを肩に掛け、一人でさっさと手塚は戻って行った。

「不二先輩も大変っスね。」
「まあ、何時ものことだし。そこがいいんだよ。」
「・・・そんな事、オレに向かってよく言うっスね。」
「まあね。」

すでに玄関に着いている手塚から、「早くしろっ!!」と声がする。
二人はなんとなく、顔を見合わせて、にやりとお互いを牽制し走り出す。
踵から舞い上がる砂埃が、そろそろ梅雨を待ちわびていた。



END



モドル
2style.net