Deep Sea/Text






第4章




「わー…すっごい高さだね、大石」

島の北端に程近い断崖絶壁の上で、大石秀一郎と菊丸英二は、並んで座っていた。
そこは、海にはり出した形の断崖で、覗き込むとそこはもう海だ。海面まで30メートルはあろうか…目がくらむような高さである。海から吹き付ける夏の生暖かい風が、菊丸の跳ねた髪を揺らしていた。

「ココ、どこなんだろうねー」
「ああ…まあ、日本である事は間違いないが…」
「にゃははは、そんなことくらい俺にだってわかるっての〜」

笑いながら崖に下ろした足をぶらぶらとさせている菊丸は、片手にチョコレートを持っていた。菊丸のバッグには、大抵何がしかの菓子が入っている。食べる?とすすめられはしたが、大石はとてもそんな気分にはなれなかった。

「なんかさー、信じられないよなー…不二が、もういないなんてさ…」
「英二…」
「他のみんなは、どうしてるかな。手塚とか、桃とか…みんな…無事かなー」
「無事…だといいな…」

大石は、最後から2番目に校舎を出た。もしかして、そこにはもう誰かが倒れているかもしれない、という懸念ははずれたものの、地面に残ったボールの後が新たな不安を掻き立てた(ボールそのものの姿が無かったのも無気味だった)。
そんな大石の気持ちをよそに、菊丸はもそもそとチョコレートをかじっている。そっとその横顔を見ると、台詞とは裏腹な、いつもと変わらぬ表情がそこにあった。

「俺達、これからどうなると思う?大石」
「…それは…」
「まったくやんなっちゃうよなあ。これから夏休みだってのにサ」
「英二…?」
「ま、期末テストが潰れたのだけはラッキーかなー?」
「……!」

まるでいつもの学校帰りのように、普段となんら変わらない口調で話し続けている菊丸を、大石は信じられないという目で眺めた。今、自分の置かれている状況がわかっているのだろうか。

「そういえば、水曜のドラマさ、今週はいいところで終わったよね。見た?」
「なあ…英二…」
「来週も見たかったのににゃー」
「英二っ!」
「わ、何?急に大きな声出すなよ〜、びっくりすんじゃん!どしたの?」

この非常時に何を言ってるんだ!そう言おうとして、ふとある事に気がついた大石はぎくりとして口をつぐんだ。
今、英二はなんて言った?そう、

来週も見たかったのに。

そう、過去形で言った。

「英二…お前…」
「……」

食べ終わったチョコレートの銀紙をくしゃくしゃと丸めて海に捨てると、菊丸は立ち上がって大きく伸びをした。

「だってさー、しょうがないじゃん?俺、みんなを殺すなんてできないしー…」
「……」
「そりゃ死ぬのもやだけど…でも…しょうがないじゃん…?」
「…英二…っ!」

大石も立ち上がり、そして、菊丸を抱き締めた。
ざあざあと、海の音だけが聞こえる。
大石の肩ごしに見える月が、あたりをぼんやりと照らしている。菊丸はああ綺麗だな、とそんなどうでもいいことを思って、ほんの少しだけ、泣きたくなった。

「あ…ははっ、ヤダヤダ、俺ってば何をセンチになってんだろー、ハズカシー!」

菊丸は無理矢理笑顔を作り、少し俯いてその体を大石から離した。

「英二…」
「まーどうせさっ、どっちか1人しか生き残れないんだろ?ひとりじゃダブルスできないし、だからいいんだ、俺は。でも、大石は最後までガンバレよ!な!」
「…英二、俺もいいよ。俺は…英二以外のやつと、ダブルス組む気なんて、ないから」
「大…石…」
「な…俺達は…最後まで、一緒だろ?」
「……大石っ!」

再び菊丸は大石に抱きつき、そして、そっとキスした。もうキスなんて数え切れない程かわしてきたはずなのに、なんだか初めての時のようにドキドキした。
それは、この舞台装置のためか。
それとも、これが最後だという想いのためか。
それはわからなかったが、そんなことはどうでもいい気がした。
もう、自分達にあるのは『今』だけなのだから。

「へへ…でも、こんなことなら、ちゃんと桃にあやまっときゃ、良かったかな…」
「謝るって…なんかしたのか?」
「ウン、ここに来る前に部室でさ。ベンチに置いてあった、桃のMDにポカリひっかけちゃったんだよ〜。あれ、壊れちゃったかなあ…」
「ハハ、そうか…。じゃあ、」

じゃあ、天国で謝ればいいよなんて、そんな恥ずかしい台詞が浮かんだが、それはさすがに口には出せなかった。

「ホント、人間っていつどうなるかわからないんだねー。今ここに桃が来たら、謝るのに…壊してゴメンて…………。ん…待てよ…」
「英二?どうした?」

菊丸は急に黙り込むと、うつむいて何かを考えはじめたが、すぐにその顔をあげた。

「うん、…そうだ、いいこと思いついたにゃっ!」
「??英二?」

腕の中で急に明く叫んだ菊丸を、大石は不思議そうに眺めた。
菊丸はついと体を離し、顔に輝かんばかりの笑顔を浮かべて大石を見上げた。
そして言った。

「大石!決めた!今、ここで俺と心中しよっ!」
「へっっ!?え、英二…急にどうしたんだ!?」
「何だよ〜、俺達最後まで一緒だって言ったじゃん!あれって嘘かよっ?」
「そんな、う、嘘じゃないよ!…けど、いきなりそんなこと言われても、心の準備が…」
「いいのいいの!善は急げっていうしさ!今すぐここから飛び下りよう!そうしよー!」
「善っ!?…だから何もそんなに急がなくっても!」
「もう、ごちゃごちゃ言わないー!さ、行くよ大石ぃ〜」

菊丸は両手を胸のあたりに構えて、大石ににじりよった。じりじりと後退した大石の足が、ついに崖の渕にかかる。小石がカラカラと暗い海へと落ちていったが、すぐにその姿は判別できなくなった。
恐る恐る覗き込むと、やはり凄い高さだ。大石は自分が唾を飲み込む音を聞いた。

「え、英二、やっぱりちょっと待っ…」
「じゃあね、大石!アイシテル!天国で会おう、にゃ〜んてね!…えいっ☆」

満面の笑顔で、菊丸は思いきり大石を突き飛ばした。

「のわーっ!英二いいいいぃぃぃ!」

ボチャッ。

大石が海に落ちたのを見届けてから、菊丸は大きく深呼吸をして、自分も断崖から海へめがけてダイブした。

…あたりに、静寂が満ちた。



青学大石秀一郎、菊丸英二、敗退。



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ぐぬぬぬ。私の方がハズカシーよ…!ハズカCよ…!
前半〜中盤部分は高宮サンへのサービス…と思って書いたんだ…けど
なんていうかもうどうにもこうにも。イタタ。
そして後半はどんどん怪しく。イタタタ。でも書きやすかった…。
ていうか、私に大菊を書くのはやはり無理なのか。
だってちっとも可愛く書けないし。イタタタタ…!ごめん…!
(謝ればいいと思いやがって)(ソーリー小説かよ)



モドル
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