Deep Sea/Text






第3章




「えーっと、島の一番南って…ここでいいのかなあ?」

山吹中学1年・壇太一は、島の南端付近の海岸をひとりトコトコと歩いていた。

まだ、心臓がドキドキしている。なんでこんなことになっちゃったんだろう?青学の不二さんが、あんなことになって…しかも、これからテニスで他の人たちと戦わなくちゃならないなんて…。
幸い入部届けを出した後であり、試合に出ないまでもと自分用のラケットを持参してはいたが、せいぜい気休め程度にしかならない。だから、太一はバックの中身すら確認していなかった。とにかく、心細くて仕方がない。
教室で名前が呼ばれはじめた時、千石から回されたメモには、

『山吹中学、島の南端で集合〜!ヨロシク!』

と、書いてあった。誰かを待って一緒に来ても良かったのだが、あの校舎の前にいるのは怖くて耐えられなかったため、走って海岸ぞいまで出てきたのである。海岸と言っても、ほとんどが断崖絶壁で、波が打ちつける音が絶える事無く響いている。さっきまで煌々と輝いていた月も雲に隠れてしまい、あたりは真っ暗だ。

心細さが最高潮に達しようとした時、太一は前方に小さな灯りを認めた。

「亜久津先輩…っ!」

大きな岩に腰掛け、煙草をくゆらせていたのは、誰あろう亜久津仁であった。
本来はテニス部を辞めているためここに来るはずは無かったのだが、室町が急病で欠席になり、千石のしつこい頼みを断り切れずの参加であった。

「太一か…」
「ああ、やっと会えました〜。良かった、僕、もう怖くて怖くて」
「……」
「アレ?他の人は、まだ来て無いですか〜?僕が一番最後かと…」

言いかけてあたりを見渡した太一は、亜久津のすぐ近くに転がっている黒い影を見つけてぎょっとした。暗がりではっきりとわからないが、それは…。

「亜久津先輩…。そ、その…」
「これか?ああ、残念だが、もう死んでるぜ」
「……!!」

雲が切れ、月が姿をあらわし、あたりをほの明るく染めた。
そして、太一は、その黒い影がなんであるかをはっきりと見た。
喜多、新渡米…。山吹中ダブルスの二人であった。

「…ヒッ!あ、亜久津先輩…これは…!」
「一応言っとくけどな、先に手ェ出したのはコイツラだぜ?」

「……」
「ま、どうも殺る気じゃなかったらしいがな…」
「え…?ど、どういうこと…」
「知らねェよ。おどかそうと思ったんじゃネエの?で、ちょっとだけ遊んでやろうと思ったらよ…」

亜久津は喜多が打ってきたボールを、(亜久津にしては)軽く打ち返した。ボールは2人の足下でバウンドし、その直後。

「ボールが破裂して、ガスが出やがったんだ」

喜多のボールは、ガス爆弾ボールだったのだ。どうやら、喜多も自分のボールが何かを確認していなかったらしい…。亜久津は持ち前の運動神経で素早く後ろへ跳んでガスを避けたが、2人は見事に巻き込まれた。それが、この結果だ。

「ったくよう、自分の武器にやられてたら世話ねーぜ……ま、しょうがねえな」
「……あ、亜久津センパイ、あの、千石さんは…」
「千石…?あいつは、ここへは来てねェぜ…?」
「えっ?」

おかしい、ここに来るように指示したのは千石なのに…。それに、南と東方の地味ーズもいない。まさか、すでに来る途中で、誰かに…?
そう考えて、太一は思わず身震いした。

「さてと…太一、お前これからどうする」
「え、ど、どうって…亜久津先輩はどうするですか?」

亜久津は短くなった煙草を、海に向かって投げ捨てると、ゆらりと立ち上がった。

「どうもこうもねェ。殺らなきゃ殺られるってんなら、殺るだけだ」
「……!!亜久津先輩…!」
「太一…てめえ、ここで俺と闘うか…?」

太一の足が、ガクガクと震えた。
亜久津と闘って、勝てるはずが無い。だが、それ以前に、味方同志で殺しあわなければならないこの現状を、今はっきりと認識したのだ。

「亜久津先輩…ぼ、僕…」
「……」
「僕…僕は…亜久津先輩とは、闘えないです…!」
「…殺らなきゃ、殺られるんだぜ…?」

すでに泣いている太一は、鼻をずーっとすすって、涙声で答えた。

「そ、それでもできないです…」
「てめえがやらねんなら、俺がやるぜ…?」
「ハ、ハイ、それでもいいです。お父さんお母さん、ごめんなさいいい」
「……」
「や、やるなら早くやっちゃって下さいセンパイ、怖いですからっ」
「……ケッ」
「…あ、あの…?」
「馬鹿馬鹿しい、やってられっか。オイ、もういい、行け」
「!先輩…!」
「そのかわり、次に会う時は容赦しねェ…まあ、せいぜい頑張れや…」
「あ…あぐづぜんばい…っ!」

すでに涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をさらにぐちゃぐちゃにして、それでも太一は回れ右をして、走り出した。
亜久津先輩の気持ち、無駄にはしないです…僕、絶対生き残ってみせます…!
その時。
走った振動で、ヘアバンドがいつものようにずるりと目の上にかぶさり、太一の視界は真っ暗になった。

「あ、あれあれ?何も見えないです〜!」
「オイ!そっちは…!」
「え?」

次の瞬間、太一の足下から、地面が消えた。

「わああ〜!亜久津先輩、ぼ、僕泳げませー……」

ドボン。

太一は、断崖から、暗い海へと落ちた。

「…ったく、ウチの連中は、なんでこんな馬鹿ばっかりなんだ…?」

亜久津はしばし呆然と立ち尽くし、そして誰にともなく悪態を吐いた。



山吹中学、壇太一、喜多一馬、新渡米稲造、敗退。



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山吹中学初書き…こんなんで…とほほ。
亜久津、あんまり悪役っぽくならないな。



モドル
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