Deep Sea/Text






第2章




(さて…どうしよう…)

時刻は真夜中を少し回っており、外は真っ暗である。ただ、月が出ているため、この街灯の一本すらない島の様子がなんとか伺えた。本当に人っ子一人いないようだ。あたりはシンと静まり返り、風や梢のざわめきと、遠くの方からかすかに聞こえてくる海の音しかしない。
手塚は校舎を出て歩きながら必死に考えを巡らした。

(やはり、橘や大石が出てくるのを待って、これからの事を相談しよう)

そう決めた時、誰かが急に手塚の腕を掴み、前方の林の中へと引きずり込んだ。

「うわっ!?」
「シッ、部長。静かに!」
「こ、この声…越前か?」
「そッス。とにかくこっちに来てよ。そんなとこに居たら、ねらい打ちだろ」
「え…」
「もう、呑気だなあ。誰かが殺る気で戻ってきたらどうすんの?」
「そんな…やる気の奴なんて…」
「甘いね。誰だって自分が一番可愛いんだからさ、生き残るためならやるよ」
「……お前もか?越前…」
「…さあ、どうだろうね…。でも、アンタを狙ったりは、しないよ」
「……」
「ねえ、部長。アンタこれからどうするつもり」
「どう…って言われても…」

ふと、先ほどの光景…血まみれで倒れた不二の姿が浮かんで、手塚は思わず目を伏せた。長い睫が、かすかに震えている。
下から覗き込むようにしてその顔を見つめていたリョーマは、ごくりと唾を飲み込むと、いきなり手塚に飛びかかって押し倒し、その長身の上に馬乗りになった。

「わあっ!?え、越前!?」
「部長…この際だから言うけど、俺、部長の事が好きッス!だから」
「だ、だからっ!?」
「やらして下さい、今!」
「な…何っ!?越前、正気かっ!」
「もちろん。だって、明日死んじゃうかもしれないんだからさ。生きてるうちにやることやっとかないとね…」
「ちょ、ちょっと待て…!どうしていきなりそうなるんだ!」
「大丈夫、最後の二人になるまで俺がアンタを守ってあげるから」
「俺の話を聞け!ていうか、最後の二人になった後はどうなるんだ!」
「そんなの決まってんじゃん?タイムリミットがくるまでヤりまくって」
「だ、誰かー!」
「もー、往生際が悪いなあ…そろそろいくよ!」

体格差からいって、手塚ならリョーマを退ける事くらい簡単に出来そうなものだが、リョーマは巧みに手足を使って手塚の四肢を押さえ込んでいる。おまけに、やけに重い。

(越前のバックの中身、もしや鉛入りのボールか…?き、危険すぎる…!)

リョーマが顔を手塚に近付けた、その時。

「きゃあー!」
「!?」

闇を引き裂くようなカン高い悲鳴が響き、ほんの一瞬だけ、リョーマの意識がそちらに向いた。その瞬間を見のがさなかった手塚はリョーマをなんとか振り落とし、バックを拾って声の方向へ走り出した。

「にゃろう、逃がすか!」

木立を抜けて校舎前へ戻った手塚が見たものは、地面にへたり込んでいるカチローと、あたりに落ちているテニスボールだった。

「あ…手塚部長…!」
「勝野?どうした、大丈夫か!」
「ほ、堀尾くんが…堀尾君が…!」
「え?」

ひゅっと風を切る音がして、手塚の顔のすぐ横をテニスボールが通り抜け、鈍い音をたてて地面に落ちた。どうやら、かなり重いらしい。
見上げると、入り口の屋根の上で青ざめた堀尾がラケットを構えていた。

「ほ、堀尾君…!ひどいよ!」
「うるせー!どうせ死ぬんだ、なんでもやってやるうー!」
「やめろ、堀尾!」
「う、うわあー!」

手塚の制止も聞かず、堀尾はバックから取り出したボールを次々と二人に向かってうちこんで来た。咄嗟にカチローの前に手塚は立ちふさがった…が、堀尾のボールはひとつたりともまっすぐ飛んでくる事はなく、周囲にばらばらと散った。

「どこを狙ってるんだ堀尾!ちゃんと練習しないからだぞ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
「ヤロウ、堀尾!いいところだったのに邪魔しやがって!」
「あ…リョーマ君…?」

手塚を追ってきたリョーマは素早くバックから自分のラケットを取り出すと、足下に落ちていたボールを拾い上げ、堀尾めがけて打った。

ドコッ!

「ふぎゃっ!」

鈍い音に続いて悲鳴が聞こえ、堀尾のシルエットが後ろに倒れこみ…そして静かになった。

「あ…あ……」
「さて、と。じゃ、悪いけど、カチローにもここで…」
「う、うわあっ」
「逃げるぞ、勝野!」
「あ、待て!」

ただならぬ気配を察した手塚は、カチローの手を掴んで林の方へと走り出した。リョーマはボールを拾い上げて狙いを定めたが、すぐにその手を下ろした。手塚にあたったら元も子もない。

「まだ時間はたっぷりあるし、先に他のやつらでも倒しとくか。それに…」

お楽しみはこれからってね。
リョーマは月明かりの下で不敵に笑った。



青学堀尾聡史、敗退。



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リョーマ…悪役すぎ!ヒイイ!



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