Deep Sea/Text






遣らずの雨/大石編




雨天中止。

野外での活動を主とする部活では、間々あることとはいえ、
今日はめずらしく室内練習への切換もなく、試験も近いという事で
途中解散となった。



降り出した雨は、かなり遠くに雷鳴を轟かせながら、雨足を強めていった。
部員達は、早々にあまり美しくはない傘の華を咲かせながら
足早に退散していき、最後まで残ったのはいつもの副部長と
ダブルスのパートナーである菊丸の二人であった。


「英二、不二にでも入れて貰えばよかったんじゃないのか、傘」
「んー、でもさぁ。なんか悪いじゃん」
「なんだ、それ?」
「まあ、気にしない気にしない。大石の傘が良かったの。そんだけ」
コロコロと机の上で、黄色のテニスボールを転がしながら、菊丸は
早く終わらせてよーと口を尖らせながら言った。
「はいはい」と返事をし片づけるふりをしながら、大石は素早く背を向けた。

(大石の傘が良かったの−。)
−・・・・・耳、熱いかも。顔、大丈夫だったかな。


肩越しにチラリと見た菊丸は、2個3個とボールを転がし、
机に突っ伏した格好で、鼻歌を歌っていた。
誰にでも分け隔てなく、気さくで明るくて人なつっこい、
そんな性格の為か見た目も合わせて、
よく人から「可愛い」と形容されているが本人に言わせれば、

可愛いじゃダメ。格好いい!じゃないとね。
男でもクラッてきちゃうよーな、そういう格好いい男になりたい訳よ。
大石みたいなね!


−あれもかなり嬉しかったけど、俺が期待してるような意味なんて、無いんだろ
な。


ハァと重めの溜息をつきながら、棚から部誌を取り出した時、
背後でコトンコトンと音が鳴り、目の端を黄色のボールが2つ横切っていった。
振り返ると、菊丸は先ほどの格好のまま、すーすーと穏やかな寝息を立てていた。
「英二、そんな格好で寝ると風邪ひくぞ」と言ってはみるが、答えは返ってこな
かった。


−まったく、人の気も知らないで、無防備な顔しちゃって。

大石は自分のジャージを脱ぎ、菊丸の肩から掛けポンポンと軽く背中を叩きながら
耳元に近づいて「おやすみ」と小さく声をかけた。
眠っている菊丸は、鼻をクンクンとわずかに動かし、大石のジャージにくるまると
ふにゃんとだらしない笑顔で「大石だぁ〜」と一言満足げに呟いた。
雨音が五月蠅くて、近くにいなければとても聞こえないそんな僅かな声だった。

・・・・その姿勢のまま、大石はしばらく固まって動けなかった。
やっと、「…え?」と声が出た時には、顔や耳の先までもが真っ赤に染まっていた。
ドクドクと聞こえる心音が、部室中に響き渡っている、そんな錯覚さえもする程
だった。

その場にズルズルとへたり込むと、頭を抱えて「…やばい」と言ったきり
また動けなくなっていた。


−今のはかなりやばい。俺、絶対勘違いする。

雷が落ちる音はしないが、外では一瞬真っ白な光が輝いた。


*******
いつも通りの作業を終え、大石は始終気になって仕方のなかった、
斜め前で寝ている菊丸の姿を改めて眺めてみた。


−俺の事、どお思ってんだろ。俺の好きとオマエの好きは同じなのか?

自分も机に頭を乗せて、視線の高さを同じにしてみる。
これからもずっと、同じ高さで同じものを同じように見ていきたい。
そんな我が儘を何度願った事だろう。
雷鳴も遠のき、静かにサァァァと雨音だけが聞こえる。
せめて雨が上がるまで、君を独占していても構わないだろうか?


−願わくば、俺の勘違いが勘違いのままでありますように・・・。




To Another Side


はは。作ってしまいましたよ、大石編。
アニメの部室には机はないけど、無いと困らないのかなー。
まあ、「机ありの部室」という事で脳内追加してくださいね。



モドル
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