Deep Sea/Text






遣らずの雨/菊丸編





ざぁざぁと遠くの方で聞こえる雨音。
頬にヒンヤリと心地よかったはずの机は、何時の間にか汗ばんで
スルリと肩から落ちる何かの気配で菊丸は目が覚めた。
もぞもぞとそれを床から拾い上げ、まだスッキリしない朧気な視線で
拾ったものを確認する。

−あれ?これ大石のレギュジャじゃん。

ふわぁと欠伸と伸びを同時にしながら、辺りを見回し、
斜め前に先ほどまでの自分と同じ状態の大石の姿を見つけた。

部活の最中に降り出した雨のおかげで、今日の練習は中断を余儀なくされ
傘を持たない菊丸は、「入れてって」のおねだりの代償として
大人しく大石の仕事が終わるのを待っていた・・・はずが、
どうも途中で眠りこけていたらしい。


降り出した雨のおかげで、気温はグッと冷え込んでいた。
夏が近いとはいえ、ポロシャツでうたた寝をするには、
まだ少し早い、そんな季節だった。

−自分だって、半袖じゃん。俺に掛けてる場合じゃないっしょ!

誰もいないのを良い事に、にやにやと笑みを浮かべながら
嬉しげにギュッと大石のジャージを抱きしめながら、本来の持ち主の元へと
足を運んだ。

−まったく、世話焼かすなっつーの!

ふわりと大石の肩から掛けると、まだわずかに残る温もりの心地よさからか
満足げな顔で、自ら潜り込んでいった。


窓の向こうでは、まだ雨が降り続けていた。
雨足は僅かに弱まってはいたが、止むまでにはもう少し時間がかかりそうだった。


手近な椅子を静かに動かし、
椅子の背に腕組みした上に顎を乗せ、菊丸は神妙な顔つきで
ジッと眠る大石の顔をしばらく見つめていた。
一瞬だけ困った様な泣きそうな表情で、唇だけ動かす。

「・・・・」

音には出さないで、空気の波紋だけで伝える。
わかって欲しい。でも知られたくない。
だからって何時まで大事に仕舞っておけばいいのか、
最近は自分でも持て余し気味で、つい溢れてしまう。

−勿体ないけど、そろそろ起こすか。このままじゃ、俺がヤバイからな。

苦笑いしながら、大石のおでこの中心に、
自分の中指を宛い、すぅと軽く息を吸い込む。


「きっくまるビームスペシャルっっ!!」
ビシッ!!という音と共に、大石の身体が跳ね上がる。


「ってぇ!!何すんだよっ、英二っ!!」
「へへーん。いい加減に起きたまえ」
「勘弁してくれよー、マジで痛い」
「舐めときゃ治るって」
「舐めてくれんのか?」
「もちろん。どこでもそこでもあそこでも。まっかせなさーいっ!!」

どちらともなく吹き出して、ぎゃははと笑い出す。
さて、帰りますかの言葉を合図に、各々帰り支度を始める。
何時しか雨もほぼ止んで、うっすらとオレンジ色の光が
雲間から見え隠れしていた。

−ちぇっ、相合い傘さえお預けですか。

「遅いぞ、英二。鍵閉めらんないだろ〜」
「はいはい、おまたへー。ねぇ、大石、なんか腹減んない?」
「ああー、そういえば減ったかもな。でも、額がズキズキして駄目かも」
「わりぃわりぃ。んぢゃ、ハンバーガー1個ねっ」
「さんきゅ、英二。これはお礼」
大石は菊丸の首に腕を回し、こめかみの辺りを拳でグリグリと小突きまわした。

−今の俺にはちょっと、いやかなり嬉しいかもです。
「にゃはははー」
「大丈夫か?英二」

−足りないくらいです。





To Another Side


おつき合い前の大石と菊丸という感じです。
次は大石Verをやってみたいなー。
どうも、同じ時間軸で二人を作るのが好きらしいよ、私。



モドル
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