音楽科と普通科が併設された、伝統的ある学校・星奏学院。
この学院は音楽科と普通科の交流はなく、どこか同じ学校という意識は無いようだった。
――――――が、今年は違う。
今年は不定期に開催される「音楽コンクール」が行われている。
そして、そのコンクールに今までと違う異変が起こったからだ。
過去、コンクールに参加者は音楽科の生徒に限られていた。
コンクールの優勝者から、世界的に有名な音楽家を多数輩出しているハイレベルなコンクールに、
音楽に馴染みの少ない普通科は、どうあがいても太刀打ちできない。
だが、今年のコンクールには音楽科のみではなく、普通科からも2人の生徒が選ばれた。
選考基準は明確にはされてないが、2人の普通科生徒の健闘により、音楽科と普通科の
間にあった壁が崩れつつあるのは事実である。
音楽科棟だけでなく、普通科棟でも、コンクールの話は普通のように話題に上っている。
そして、生徒たちの間で盛り上がっている話題はもう1つ。
音楽コンクールで伝説となっている「ヴァイオリン・ロマンス」
コンクールを通して、共に技を競い合ったライバル同士が恋に・・・などという話。


夕陽のオレンジに照らされ、暁に染まる校舎の屋上で、私は1人ヴァイオリンの練習。
私、日野香穂子は、コンクールに普通科から選ばれた一人。
その理由は、リリ――ファータを見ることが出来たから・・・などという単純な理由。
こんな話、誰に話しても信じてもらえないだろうな、きっと。
ヴァイオリン経験はなく、もちろんヴァイオリン以外の楽器も触った事のない私は、
何とかリリに貰った“魔法のヴァイオリン”を使うことによって、コンクールの舞台に
立てるだけの音を奏でられるようになった。
音は魔法のヴァイオリンによって出すことは出来る。
でも、それだけではダメ。
音に感情が入ってないと、ただの単調な音になってしまい、聴いている人にはただ苦痛なだけ。
ただ音を出すのと、奏でるのとは全然別物。
演奏家の心がこもっていてこそ、音は響く。
舞台に立って演奏する以上、聴いてもらって苦痛になるような音だけは出したくない。
そんな思いで、一生懸命練習してきた。
明日はセレクション当日・・・これで3回目だけど緊張は最高潮。
これが、明日を含めて後2回もあると思うと・・・気合を入れないとね。
夕陽を背に、明日のセレクションで弾く予定の曲を練習していた私は、ふいに
ヴァイオリンを弾く手を止めた。
そっと振り向くと、瞳に映るのは美しい夕陽。
夕陽を見ると、何故だか思い出す音がある。
それは、同じ普通科からピアノでコンクールに参加している、同じ2年生の土浦梁太郎くんの音。
彼の音は“夕焼けに似ている”と私は思う。
温かく、全てを包み込むような優しさ。
そして儚さ、愁いを帯びた音・・・。
聴いていると、自然と涙がこぼれてしまうほどに、心に響く。
私は、土浦くんの音が気になって仕方がないのだ。
いや、音だけではないのかも・・・
明日への緊張を忘れよとするように、私は沈み行く夕陽を見つめ、土浦くんの音を思い出していた。

「日野・・・?」
土浦くんの演奏を思い出しながら夕陽を見つめていると、不意に後から声をかけられた。
「・・・つ、土浦くん!?」
余りにもボーっと土浦くんの事を考えていたのか、本人を目の前にして少し、その存在を
認識するのに時間がかかった。
「何してるんだ、こんな所で?」
「あっ、うん、え〜と・・夕陽をね、見てたの。明日のことを考えると緊張しちゃうから、
ちょっとした気分転換」
動揺してるのがバレない様に、視線を夕陽の方へと向けた。
夕陽はほぼ沈み、辺りは少しずつ暗くなっていた。
「緊張? 第2セレクションで2位だったお前が?」
「あれはまぐれだよ・・今まで練習した中で、一番の演奏だったから・・」
そして、私だけの力ではない・・・これは言えないことだ。
「・・ったく、緊張ほぐしに何か弾いてやろうか?」
考え込むように黙ってしまった私を気遣ってか、土浦くんの言葉は嬉しい限りだった。
セレクション前に他人の演奏を聴くのは、自分の演奏に影響が出るからダメだという人がいるが、
まだまだ初心者の私には、土浦くんの演奏が聴けるのは良い勉強になるし、
何より・・・何だろう・・。
「ありがとう。弾いてもらえると嬉しいな」
「じゃ、練習室にでも行くか。セレクション前日だから開放してくれてるらしいぜ」

練習室棟に行くと、他の生徒の姿はまばらで、気兼ねなく使える雰囲気だった。
「何が聴きたい?って、明日の演奏曲だけはダメだからな。ライバルに手の内は見せられないからな」
笑って言う土浦くんに、私は「お任せで」と伝えた。
「では、これで・・・」
土浦くんの指が鍵盤の上を滑り出した。
体温を感じるような音色。
そして、時折ドキッとするような激しさ、強さ・・・『幻想即興曲』
「ショパンの曲は、精神状態を安定させる働きがあるそうだぜ」
土浦くんは演奏しながら教えてくれた。
ショパンの曲は、音楽療法などによく使用されている、と。
そんなに精神状態が不安定に見えたのかな?
でも、土浦くんのそんな優しさが何より嬉しかった。
まるで、疲れもそっと包んでくれるようで・・・。
これで明日は大丈夫!そう確信した。
「ありがとう!明日、負けないからね!!」
「おう、受けて立つぜ! じゃあ、帰るか」
校舎の外に出ると、辺りは当たり前のように暗くなっていた。
そして、当然のごとく、土浦くんは家まで送ってくれた。

「今日は本当にありがとう!土浦くんはやっぱり・・夕焼けかな? じゃあ、また明日!」
「えっ?あっ、おいっ!!」
私の残した言葉が気になったのか、土浦くんの声が追いかけてきたけど、それには答えなかった。
だって、土浦くんの音が、夕焼けの空のように温かく包んでくれる、なんて恥ずかしくて言えないし。


そして、第3セレクション当日。
驚いたことに、土浦くんの演奏曲は『幻想即興曲』だった。
今日も、相変わらず完璧なテクニックで奏でられる音は、優しい音の粒となって私を包んでくれる。
演奏後の拍手は、今までで一番大きく響いた。
優勝は―――土浦くん。
これには、誰も文句は付けられないだろう。
私は、前回に続き2位だった。

衣装を着替えて、控え室の外に出ると、そこには土浦くんが立っていた。
「おめでとう、土浦くん!でも、驚いたよ。まさか『幻想即興曲』を演奏するとは思わなかったから」
「ん?何だその・・・お前になら手の内を見せても良いかな、と思ってな」
ちょっと照れくさそうに言う土浦くんが、何だか可愛かった。
「ありがとう、信頼してくれてるんだよね?」
ライバルではない想い、なんて思ってしまっても良いのかな?なんてね。

「で?夕焼け、って何だよ」
「それは・・・内緒だよ〜」
「おいっ、何だよそれはっ!!」
それは、貴方の奏でる音。
優しく包み込む、温かな音。
これは、最終セレクションが終わった後に伝えよう。
次の最終セレクション、どんな曲を演奏してくれるのかな?
今から待ち遠しい限りです。
 






友夢ちゃんが初コルダ小説をプレゼントしてくれましたvv2日で書いたとは思えない程、素晴らしいお話!
たっぷり、つっちーを堪能させていただきましたvvこのさり気ない優しさが大好き(*^^*)
第3セレクションともなると、そろそろお互いにライバルでありながらも信頼しあえる仲になってる頃かな〜?(///)
夕焼けのように優しいつっちーの音色が、今にも聴こえてきそうです。あぁ… 幸せ…vv
私のつっちー大好きに、ますます拍車をかけてくれて友夢ちゃん、有難うです〜!!(笑)

                                      by.ちょま





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