涙が止まらない――。
最近、おかしいなとは感じてた。
だけど・・・音が響くのが嬉しくて。奏でるのが楽しくて。
その気持ちしかなかった。その気持ちで、気付かないふりをしてた。
――だから、まさかこんなことになるなんて思っていなかったの。楽器との突然の別れ――。
何も考えたくない・・・。
私は、待ち合わせしてることも忘れて、
一人になるために公園に向かう。
* * * *
夕日に染まる空を見あげながら、今までの出来事を振り返る。
はじめてこの公園で弾いたときのこと。
学校では「普通科だから」という目があるけれど。
一般市民が集まるこの場所にはそんなものなくて。
だから技術がどうのってより気持ちを伝えようと頑張った。
それもあの子のおかげ。
私の気持ちをそのまま伝えてくれたから。
――やっぱりあなたしかいないの。
兄弟だからって、あなた以上に響いてくれるのかな。
あなたみたいに響かせることができるのかな?
――そんなこといっても始まらないけど。
今だけ哀しみに浸ってもいいよね?
「・・・香穂・・・」
後ろから、少し寂しく響く彼の声がする。
息が少し上がってるから、ずっと探してくれてたんだと思う。
会いたかった。――でも会いたくなかった。
そんな気持ちが交差する。
「なあに?」
振り向かずに答える。
自分でもそんな態度はどうかと思うけど。
でも、顔を見たら――きっと涙が止まらない。
「こんなとこで何してるんだ?」
「・・・」
「・・・探したよ。待ってても来ないから」
「!」
一週間前から一緒に帰っている人がいることを思い出し振り返る。
と同時に、すぐ後ろまで来ていた彼に抱きしめられた。
その温もりに――やっぱり涙が溢れてしまう。
「・・・リリから聞いたよ。心配してた・・・」
「・・・うん・・・」
泣きじゃくる私が離れないからか、優しく頭を撫でながら囁かれた。
「全部、吐き出しちまえよ」
「え?」
「そばにいるから――今日は思いっきり泣け」
「土浦くん・・・」
「・・・俺が全部受け止めてやるからさ」
その言葉をきっかけに、私は声を上げて泣き出した。
そして、何かをぶつけるように言葉を吐き出す。
「・・・楽器、壊れちゃったの」
「もう私には魔法の力はないの」
「もう楽器弾けないよ」
「コンクールももう出ない・・・」
鳴咽が混じりながらだけど、言葉にすると少し楽になった。
涙の分が軽くなったのもあるかもしれないけど。
涙が落ち着いてくると、吐き出すものもなくなってきた。
「・・・落ち着いたか?」
「・・・・・・うん」
「じゃあ少しだけ言わせてな」
「・・・?」
不思議がっている私を抱きしめながら、耳元で囁かれる。
「大丈夫だよ。今まで頑張ってきたんだから。
すぐに弾きこなせるさ」
「・・・魔法がかかってない、本当の香穂の音が出せるはずだ」
「土浦くん・・・」
単純だって言われるかもしれないけど、土浦くんに言われると
なんだかそうなるような気がしてくるよ。
「これからも今までみたいに頑張れるか?」
「・・・分かんない・・・・・・だけど頑張ってみる」
「・・・そうしてくれると、俺も嬉しいよ」
「・・・・・・どうして?」
少し考えてみたけど、やっぱり分からなかったから。
素直に聞いてみることにした。
「俺は、そばにいられるならそれでいいけど・・・
どうせなら香穂と一緒にコンクールに出たい」
「・・・私が巻き込んじゃったしね」
「そうだな・・・だけど、楽しめるコンクールもあるんだって。
そう教えてくれたのは、お前だぜ。
だから・・・俺は香穂がいないと楽しくない」
――だから続けてくれると嬉しいよ。
そんな感じの眼で見つめられる。
その眼に答えるように言葉を紡ぐ。
「また一からはじめるよ。今度は今の楽器がいつまでも響くように。
・・・楽器に無理させないように、頑張る」
その決意に同意したのか認めてくれたのか分からないけど、頭をポンポンと軽く叩かれた。
「よし、じゃあ帰るか」
「うん」
「もう遅いし・・・家まで送ってやるから後ろ乗れよ」
そう、彼は私を捜し回るため、自転車でここまでやって来てたのだ。
一度家に帰っているはずなのに、服は制服のままだった。
その気持ちにまた涙が出そうになったけど、
ここはぐっと堪えて自転車の後ろに乗った。
だけど・・・自転車の二人乗りって、やっぱり・・・。
「・・・しっかりつかまってないと落ちるぞ」
――やっぱり?
私は彼の背中にそっと手を伸ばしてその広さを確認すると、
それから手を腰に回して抱きついた。
――ありがとう。あなたが居てくれてよかった。
・・・・・・大好きっ!