
心のこもった音は人の心に響く。 完璧な技術は音を響かせてくれる。 技術と心、音を奏でるものにとって大切なのは・・・。 それは当たり前のことで、当たり前でないこと。 答えは・・・あるのでしょうか?
いつもより早く目が覚めて、私は学校へと向かった。 春の早朝は、やっぱりちょっと肌寒い。 学校に向かう道中、手にしっかりと握られているヴァイオリンにふと目が留まった。 音楽に関して素人である私が、初めは魔法のヴァイオリンの力を借りたとはいえ、 今は自分の力でヴァイオリンを弾いている。 偶然とは不思議なものだ。 偶然は重なり必然となる。 出会いは偶然であり必然。 もしかしたら、初めから決まっているのかも知れない。 星奏学院に住むというファータ――リリが見えてしまったこと。 不定期に開催される学院内コンクールへの参加が決まってしまったこと。 ヴァイオリンを弾き始めたこと。 そして、コンクールに参加するメンバーに出会ったこと。 全てが偶然であり・・・必然?
学校の校門をくぐると、不意に何かの音が耳に届いた。 これは・・・チェロ? 聞き覚えのあるチェロの音をたどっていくと、どうやら屋上から聞こえてくるようだった。 ゆっくりと屋上への階段を上り、扉の前に辿り着くと、何故だか音は聞こえなくなった。 あれ?と思いながらも屋上への扉を開くと、そこには思った通りの演奏者がいた。 イスに座ったまま、チェロを抱き締めて眠っている可愛い後輩――志水くん。 屋上は、彼のお気に入りの場所。 その見慣れた光景には、ついついクスッと笑ってしまう。 いつまでも見ていたい微笑ましい光景なのだが、風邪をひいてはいけないと思い、 そっと揺り起こした。「おはよう、志水くん」 そっと目を開けた志水くんは、ボーっとしたまま、じっと私を見つめていた。 「・・あっ、先輩・・・おはようございます・・・」 ようやく私を認識してくれた志水くんは、眠そうな声で答えてくれた。 「こんな所で寝てると、風邪ひいちゃうよ」 「・・はい・・すいません・・・」 分かってるのか、分かっていないのか判断できない返事にちょっと苦笑いしつつも、 仕方ないな、と思ってしまう。 「今日は早いんだね」 「はい、珍しく早く目覚めたから、学校で練習しようと屋上に来たのは良いのですが・・・ やっぱり眠くて・・・」 今にも眠ってしまいそうに答える志水くんは、可愛くて放っておけない存在。 弟、みたいな感じなのかな? でも、ちょっと違う感じもする・・・一緒にいると、何だかホッとしたりもするしね。 「人生とは・・・」 「えっ?」 「人生とは、人前でヴァイオリンを弾きながら、しだいに腕を上げていくようなものである、って 言った人がいましたけど・・・先輩を見てると本当だな、と思いました」 「???」 唐突な言葉を理解できない私に、志水くんは「何となく、そう思っただけです」とだけ答えた。 やっぱり謎です、志水くん・・・。
「そういえば・・・」 「ん?」 志水くんは、何かを思い出したように、また口を開いた。 「最終セレクションのテーマは『かけがえなきもの』でしたね」 「そうだね」 三日後は最終セレクション、コンクールも次で終わり。 始まってしまえば、時が経つのは本当に早い。 志水くんと共に参加できるコンクールは、次で終わってしまうのだ。 普通科である私は、音楽科である志水くんとの唯一の接点がなくなるのを、ちょっと寂しく感じる。 普通科と音楽科、もっと交流があれば良いのにな。 「・・・かけがえなきもの、って何でしょう?」 「そうだな・・・一番大切にしたいもの、想うもの、かな?」 志水くんの質問に、私は少し考えて、頭に浮かんだ言葉を答えた。 本当は、もっと奥の深いものだと思いながら。 「一番大切にしたいもの、想うもの・・・」 志水くんは、私の答えた言葉をかみ締めるように呟いた。 そして、少し考えているようにうつむいて黙ってしまった。
「先輩には、かけがえないものってありますか?」 「はい?」 少しだけ空白の時間が流れ、志水くんは顔を上げて質問の言葉を発した。 でも、自分の中で答えは出ているのか、志水くんは質問しながら、私の答えを待たずに 自分の話を続ける。 志水くんはマイペース・・・らしいです、本当に。 「僕には、最近出来ました」 「最近?」 「はい」 「それは、何?」 自分のペースを崩さず話す志水くんに、ちょっと苦笑いしつつも、その答えは知りたい。 志水くんの、かけがえのないもの・・・。 その答えは、思いがけないものだった。 「先輩の音です」 「えっ!?」 「先輩の音は理想なんです、これからも大切にしたいな、ずっと聴きたいなって・・・」 「あっ、あの・・・」 「ダメですか?」 「ダ、ダメじゃないけど・・」 そういうことを、面と向かって言われるとは思わなかった。 そして、戸惑ってる半面、嬉しく思っている自分に驚いた。 志水くんの存在は、私にとって・・・何? 「あっ、始業のチャイム」 1人で混乱している私の耳に、志水くんののんびりとした声が聞こえた。 思っていたより時間が過ぎたようで、始業を知らせるチャイムが鳴っていた。 「では、先輩、失礼します」 頭の中が混乱している私を残して、志水くんは屋上を後にした。 チャイムが鳴り終わる頃、ハッと我に戻った私は急いで教室に戻ったが、 ホームルームに遅れてしまったのは言うまでもない。
授業中、志水くんの言葉が気になって仕方がなく、勉強は上の空。 深い意味はないとは思いながらも・・・音だけなのかな?と考えたりして。 志水くんの音は、コンクールが始まった当初から考えると、確実に変わっている。 技術が全てだった彼に「心」が加わった。 以前、質問されたことがあったのだ、自分に足りないものは何か?と。 その時、「心かな」と答えた。 技術も大切だが、心も大切だと・・・。 人に偉そうに言えるような立場でないのは分かっていたが、その時感じたことを直感で答えた。 私の答えを聞いた直後、志水くんはしばらく考えているようだったが、その数日後に耳にした音は、 変化を見せていた。 今現在、志水くんの音は・・・心は、誰かのために向いているのだろうか?
色々なことを考え、気が付けば、終業のチャイムが鳴っていた。 今日は、何の授業をしたのだっけ?と思うほど、頭の中は混乱して集中力はなかった。 でも、混乱ばかりはしていられないと思い、ヴァイオリンを手にまた屋上へと向かった。 三日後は最終セレクション、練習をしなくては・・・志水くんに理想の音、なんて言ってもらえて、 喜んでいる場合ではない。
屋上でヴァイオリンを準備し、大空に向かって音を奏でた。 ヴァイオリンの練習していると、何故だか心が落ち着いてきている自分に驚いた。 理想の音・・・だったら、私の最終セレクションの演奏は、志水くんに聞いてもらうために 弾こう、と。 そう考えると、だんだんと無心になり、音楽の世界に集中していた。
あっという間に三日は過ぎ、最終セレクション当日を迎えた。 最終セレクションは、今までの練習の集大成。 頑張るぞ、と気合を入れて家を出た。 優しく吹く風を感じながら歩いていると、途中で志水くんに会った。 「おはよう、志水くん」 「あっ、先輩、おはようございます」 チェロをしっかりと抱えている志水くんは、ゆっくりと歩きながら答えてくれた。 その顔には笑顔が浮かび、何だかホッとさせてくれる。 「今日の最終セレクション、頑張ろうね」 「はい。今日の演奏は・・・先輩に聞いてもらいたいです」 「うん、ありがとう」 志水くんの言葉、今は素直に受けることが出来る。 それは、私も同じ気持ち、だからかもしれない。 「私の演奏も、志水くんに聞いてもらいたいな」 私の言葉に、志水くんは驚いているようだったが、少し照れたように「はい」と答えてくれた。 ゆっくりと学校に向かって歩きながら、少しだけ2人でいる時間を楽しんだ。
学校に到着すると、控え室の前で分かれて、それぞれのセレクションの準備に入った。 ケースからヴァイオリンを出し、心を落ち着けながら音を出してみる。 今日の音は、何だかいつもより澄んで聞こえた。 それだけ、心の中の迷いがないということかもしれない。 舞台に立つのは怖くない、なぜなら、私の音を聞いてくれる人がいるから。 想いは、音に乗せることが出来るから。
セレクションが開始された。 演奏は志水くんが1番。 私の演奏は4番目だから、志水くんの演奏を聞いてから舞台袖に待機することが出来る。 そっと席に座り、演奏を待った。 舞台に立つ志水くんの姿は、いつもより頼もしく見える。 志水くんは、自分の間をとり、弓を構え、音は奏で始められた。 その音は、包み込むような優しい音。 低音の優しい響きが、心にしみこんでくる。 心に落ち着きをくれる、想いのこもった音。 私も、この音が好きだなと、改めて実感した瞬間だった。
志水くんは、盛大な拍手のもと最終セレクションの演奏を終えた。 次は私の番、志水くんに負けてはいられない。 しばらく鳴り止まぬ拍手の中、私は席を立ち舞台袖へと向かった。 舞台袖では私が来るのを待ってくれていた志水くんと笑顔を交わし、自分の舞台へと向かった。 私が舞台に立つ頃には、志水くんは席に座って演奏を待っていた。 舞台から志水くんの姿を見つけると、すっと心が落ち着き、その想いを胸に演奏を始めた。 指はいつもに増して思い通りに動き、それから奏でられる音は、今までで一番の音の響きをみせた。 そして、運命のコンクールは終わった。 結果は・・・素敵なものでした。
コンクールは閉幕し、志水くんと共に帰路に着いた。 「これからも、先輩と一緒に音楽を続けたいです」 「私も、同じ気持ちだよ」 遠回りして、家の前まで送ってくれた志水くんは、最高の笑顔を見せてくれた。 これからも、2人の演奏会は続いていきそうです。 その演奏会に、終わりはありません。
私の誕生日に友夢ちゃんが創作をプレゼントしてくれましたv最高のプレゼント♪ つっちーにしようか迷ったんですが、志水君の創作が呼んで見たかったので。。。 志水君の創作って書くのが難しそうなんですが、見事に書き上げてくれました!! このマイペースなところがたまらなく可愛いvvじゅんじゅんの声に当てはめて 一人で妄想しながら読んでました(笑)完全に頭の中で映像化してたり…(*^^*)
by.ちょま

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