優しい音。
言葉にするには簡単だけど、それを音として奏でるのは難しい。
音は、奏でる者の心。
演奏者そのもの・・・。

そして私は出会った、優しい音に。
全てを包み込んでくれる、優しい音・・・。

私、日野香穂子は星奏学院の普通科に通う高校2年生。
音楽の妖精であるファータのリリを見てしまい、学院で不定期に開催される
音楽コンクールに参加することになってしまった。
それも、ヴァイオリンでの参加・・・。
今まで、楽器らしい楽器を扱ったこと無い私にとって、ヴァイオリンなんて未知の世界。
弾けっこない、と断ったのに、渡されたのは『魔法のヴァイオリン』
未経験者でも音を出すことが出来る、だそうで・・・試しに弾いてみたら確かに音は出た。
でも、それは単に音を出しただけ、ただ、それだけ。
奏でてる、とは言えないよね、やっぱり。
音は演奏者の心に反応するそうだけど・・・現状では、人前に立って演奏なんて出来る状態ではない。
参加すると決まった以上、ヴァイオリンの練習はしてるけど、選曲は・・・どうすればいいのだろう?
第一セレクションは先日テーマが発表され、本番は1週間後・・・
まだ、何を演奏するかさえ決まってない。

ヴァイオリンはかなりの音量が出るため、家での練習は家族に迷惑がかかると思い、
とりあえず楽器を手に外に出てみた。
何も考えず行き着いた場所は公園。
たくさんの人が行き交い、それぞれの時間を楽しんでいる。
そして、そこで見つけたのは子供達の前で、楽しそうにヴァイオリンを演奏している人。
この間、金澤先生から紹介された王崎先輩だ。
星奏学院のOBで、前コンクールの出場者。
金澤先生は、初心者の私には良い相談相手になってくれるだろう、ということで紹介してくれた。

王崎先輩は優しい笑顔で子供達を見つめ、子供達から返ってくる笑顔に答えるように
ヴァイオリンを演奏している。
まるで、音と笑顔で会話をしているような感じ。
見ていると、とても不思議な空間。
見ているだけで幸せになれる雰囲気。
私は、ただただ引き込まれるようにその光景を見つめていた。
そして、あんな風にヴァイオリンを弾きたい、と心の底から思った。
だって、優しくて幸せのたっぷり詰まった音だったから。
聴いている人を、幸せに出来る音。

「こんにちは」
演奏している姿から視線を外すことが出来ず見つめていると、ヴァイオリンを弾く手を止めて
王崎先輩から声をかけてきた。
「あっ、こ、こんにちは」
慌てて挨拶を返すと、王崎先輩の視線は私の持っているヴァイオリンへと注がれていた。
「それ、ヴァイオリンだよね? ここで練習かな?」
「はいっ!とは言っても、まだ何を弾いていいかよく分からなくて・・・」
私は幸せな気分から一気に冷めてしまい、語尾の言葉はほぼ消えていた。
選ばれた以上、頑張らなくては!その想いは強い。
でも、気持ちだけが空回りして、前に進まない自分にどうしたらいいか分からなかった。
「良かったら、一緒に演奏しない?合奏も楽しいよ」
ヴァイオリンケースをギュッと胸の前で抱きしめ、うつむいて黙ってしまった私に、
王崎先輩からの思いがけない言葉だった。
「えっ!?」
驚きで顔を上げた私に、王崎先輩は言葉を続けた。
「簡単な曲から。そうだな・・キラキラ星なんてどうかな?」
「あっ、あのっ」
展開について行けず、戸惑っている私に、王崎先輩はさらに言葉を続けた。
「ほら、子供達も待ってるよ」
王崎先輩の視線の先には、先ほどまで王崎先輩の音楽を楽しそうに聴いていた子供達が、
期待いっぱいの顔で待っていた。
「あっ・・・」
その笑顔を見て、さらに不安は大きくなる。
「・・・でも、まだ人前で演奏なんてしたことなくて・・その・・自信がなくて・・・」
子供達の笑顔とは反して、私の顔は段々とくもっていった。
「では、こうしよう!子供達に観客第一号になってもらうんだ・・・怖がっていてはダメだよ。
まずは一歩を踏み出さないと、ね」
「・・一歩を踏み出す・・・?」
「そう、一歩だよ」
王崎先輩は笑顔で答えた。
私は、王崎先輩の笑顔に後押しされ、初めの一歩を踏み出すためにヴァイオリンの準備をした。
・・・怖がっていてはダメ、か。
確かに、コンクールの舞台に立てば、たくさんの人の前で演奏することになる。
そのセレクションは1週間後。
逃げるわけにはいかない!!
『魔法のヴァイオリン』は演奏者の心に答えてくれる、確かリリはそんな事を言っていた。
私の心・・・演奏をするのに迷っていてはいけないよね。
今は、これからの演奏を楽しむ。
ここにいる子供達と・・・王崎先輩との合奏を!

私は、そっとヴァイオリンをかまえ、まず、簡単に音を鳴らしてみた。
・・・?どうしたんのだろう、何故だか分からないが、今までと音が違う気がする。
硬かった音が、何だか柔らかくなった・・・?
そんな感じだった。
そして、私は弾き始めた、初めての観客の前で。
キラキラ星・・・簡単な音の組立。
私が主旋律を弾いていると、それに合わせて、王崎先輩が音を奏でてくれる。
なんて心地の良い音なんだろう。
合奏って、とても気持ちの良いものだったんだね。
1人で演奏してる時とは違う、優しい音の重なり。
簡単な曲でも、音に深みが加わる。

演奏を終えヴァイオリンを下ろすと、わぁ、っと子供達の歓声が上がった。
そして、もっと演奏してほしいとアンコールの声。
「どうだった?」
「心地よかったです」
先輩の問いに、私は素直に感じたことを答えた。
人前での演奏は、怖いものではなかった。
演奏者が楽しめば、聴いていてくれる人も楽しんでくれる。
音は会話なのだ、気持ちと気持ちの。

「アンコールに応えて、まだ何か演奏する?」
「はいっ!」
王崎先輩と私は演奏できる曲で、出来るだけ子供達に分かりやすい童謡などの曲を選んで演奏した。
演奏を続けていくたびに、観客は子供達だけではなくなっていった。
公園に来ていた人たちが、足を止めて演奏を聴いてくれる。
返ってくる歓声と拍手に、私の中にあった恐怖心はかけらもなくなっていた。

「ありがとうございました、王崎先輩」
公園での小さな演奏会を終え、私は王崎先輩と一緒に帰路についた。
「もう、大丈夫だね。セレクション、楽しみにしているよ」
「はい!期待に応えられるように頑張ります」

翌日から、王崎先輩の優しい音をしっかりと胸に刻み、セレクションに向けて練習を始めた。テーマに違えない様に、そして、何より自分が楽しめるように。楽しい時間は過ぎるのが早いというけど、練習も楽しかったのか、1週間という時間は
あっという間に過ぎ、セレクション当日を迎えた。
出来るだけの練習はした。
後は、舞台でそれを披露するだけ。
家を出る時に、頑張るぞ!と自分に気合を入れ、学校へと向かういつもの道を歩き始めた。
でも、学校に近づくにつれ、気合は入れたものの、緊張はどんどんと高まってきた。
そんな時、校門近くで王崎先輩の後姿を見つけた。
「おはようございます、王崎先輩」
「あっ、おはよう。今日は頑張ってね」
後から声をかけられた王崎先輩は振り返り、いつもと変わらない笑顔で答えてくれた。
「はい、あの時より少し成長した私の演奏を聴いて下さいね」
「楽しみにしてるよ」
王崎先輩の笑顔は、何故だか緊張を解してくれる優しさがある・・・
ちょっとした安定剤みたいなものかな?なんてね。
こんな事は、王崎先輩本人には言えない事。

セレクションは開始され、私の番が来た。
舞台袖に立ち、名前を呼ばれて舞台の中央へと向かう。
観客に向かって立った時、緊張は最高潮だったが、王崎先輩の姿を見つけ、少し落ち着いた。
ふぅ、と一息ついてヴァイオリンを構えた。
テーマは「華やかなるもの」
楽しんで弾くにはもってこいのテーマだった。
さあ、演奏を楽しもう!
奏でる音に、楽しさを思い切り乗せた。
もちろん、優しさも忘れずに。
演奏中は、王崎先輩や子供達の楽しそうな笑顔が自然と思い浮かんだ。

演奏が終わり、楽器を下ろすと同時に沸き起こった拍手と歓声に、
自分の演奏を楽しんでもらえたのだと実感した。

第一セレクションの結果は3位。
素晴らしい演奏を繰り広げた、他のコンクール参加者の中で3位になれたのは、
十分満足できる結果だった。
初心者の私が、3位になれたのは王崎先輩のお陰だよね。
あの時、あの公園で王崎先輩に出会わなかったら、あのまま悩んで舞台に立てなかったかもしれない。

セレクション終了後、王崎先輩は校門で待ってくれていた。
「お疲れ様、良い演奏だったよ」
「ありがとうございます!」
王崎先輩の言葉に、私は笑顔で答えた。
目標は、王崎先輩のような人を幸せに出来るような優しい音。
「王崎先輩、これからも私の演奏を聴いてくださいね」
「えっ?」
呟くように言った私の言葉は、王崎先輩には聞こえてないようだった。
「これからも、宜しくお願いします、って言ったんです」
「もちろんだよ」
笑顔で答えてくれる、王崎先輩。
コンクール終了まで、王崎先輩にはずっとお世話になりそう・・・そんな気がします。
 






王崎先輩の生誕記念(10/17)に友夢ちゃんが愛情を込めて創作を書いてくれました〜(*^^*)
王崎先輩の奏でる優しい音が伝わってきますね!私もその音色についつい足を止めちゃいそうv
つっちーとはまた違ったお兄さんタイプですよね、王崎先輩って♪そんな感じがしました!
猛烈ラブラブ〜っ(笑)ではないけど(それは王崎先輩にはあまり似合わないかも…^^;)
こういうほんわかラブラブってのもいいですよね〜★王崎先輩効果で次回のセレは優勝!かな?
またコルダをプレイしてきたくなっちゃった(^-^)素敵な創作を有難うございま〜すvv

                                      by.ちょま






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