ときどき、脳裏を過る思い。 フラッシュバック? そんなんじゃない。 もっと、心の底より深い。 身体が記憶している、なにか。 あれ、こんなことまえにあったなって あるはずないのに、そんなこと。 「前世の記憶ってやつじゃない?」 ベッドから身体を起こして煙草を吸いながら恵が言った。まっくろな髪を揺らしながら。 ベッドサイドのライトの灯に照らされる横顔は、髪で隠されていてよく見えない。 「前世?」 ああ、どっかで聞いたことあるような。 「体験したことないはずなのに、どこかで絶対知ってたはず、ってやつで…あ、だからか。」 自分で説明している間になにかに納得したのか、恵の声は笑っている 「何?」 そう言ったら恵がこちらに顔を向けて、はじめて顔が見えた。笑ってる、優しい表情で俺をみつめて。 「なに、」 「俺はユーキにはじめて会ったときに、前から知ってたような気がしたんだけど。」 「え?」 「だからさ、」 ずっと昔から、つながってたのかも、 なんて笑って言ってるこいつにあきれる素振りをしながらも、その言葉がうれしい俺はばかだろう。でも、素直になんてなれるわけないから。 俺はただ、揺れる黒髪をじっと見つめる。 時間が止まったかのように、動かない。 恵の右手の指に挟まれている煙草の灰がじりじりとフィルターに近付く光景だけが、流れゆく時間を教えてくれた。 「ユーキ?」 急に名前を呼ばれて恥ずかしくなって顔をそむけるけど、ほんとは。こいつが心底愛しいと思う。 「もう、寝るから」 「ん、おやすみ」 ベッドサイドのライトが消える。 暗闇の中、 恵は何もかも解っているように、俺の手をそっと握った。 おわり