夏の匂い。 静まり返った部屋は、夕焼けで蜜柑色に染められている。 遠くに聞こえるのは、祭りの音。 「‥今日近くで縁日やってんだって」 胡座をかいて猫と遊んでいるユーキがぼやいた。 「みたいだね」 机の上の機材をいじりながら声だけで返事をすると、暫しの沈黙。猫が、にゃあ、と鳴いた。 「ねぇ、」 立つのが億劫なのか、畳の上をずりずりと足を引きずってこちらまできて、肩口から顔を覗かせてくる。ユーキのこーゆーとこ、可愛いと思うよ。 「なにしてんの」 「ん?曲の編集。」 「ふーん」 なにしてんの、なんて言ってはいるものの全然興味なさげな声色の彼に、構って欲しいんだなぁと察する。 「‥よし」 作業を中断して、ユーキに向き直る。 かち合った瞳はまっくろだ。 唇に目を移せば、無防備に少し開かれている。ユーキのこの唇がたまらなく好きだっていうのに。気付かないかな。 「なんだよ」 唇に釘付けになっている俺に気付いてユーキは笑ったが、また目が合った途端、空気が止まる。 「‥ん」 重なった体温。薄く目を開けば、伏せたまぶたの長い睫毛は淡い影をおとし、小さく揺れている。愛しい恋人が、めのまえに。 「あ、ちょ…、恵」 たまらなくなって、後頭部に手をまわしてもっと引き寄せる。 「はぁ、ぁ、‥めぐっ‥」 「ん‥っ‥」 静かな空間に、小さな水音と、少々荒いふたりの息遣いがする。ばかみたいに夢中で舌を絡め合って。求め合って。きっと、お互い寂しかったから。 長く深いキスに酔い痴れながらも唇を離せば、夕焼け色に染まるユーキの髪。 濡れているまっくろな瞳に、身体の芯が熱くなる。 next⇒