またひとつ、紫煙がくゆる。 くだらない口喧嘩をしてユーキが家を飛び出してから、何分経っただろう。 フィルター近くまで吸っていた煙草を、ベランダの床に落として火を揉み消した。 目のやり場がなくて、足元の猫を見やると、気持ちよさそうに寝ている。 構って欲しいときにすり寄ってきて、好きなときに寝る。気まぐれなところが、ユーキにそっくりだ。 ふと項に当たる冷たい感触に空を仰げば、曇天。雨が降ってきたらしい。 おかしいな、さっきまであんなに晴れていたのに。 不意に、瞼の裏にユーキの細い背中が浮かぶ。柔らかい髪、濡れている瞳、白い喉。 今ごろ雨に降られて、濡れてしまってるのだろうか。 あぁ、無性にすごくあの背中を、守りたい。抱きしめてやりたい。 きっとユーキはコンビニで煙草を買ってすぐに帰ってくるだろう。 小さな喧嘩のあとは、きまってそうだ。 それでも、いま、抱きしめたい。 気がつけば、鍵もかけずに、部屋をとびだしていた。 片手にはひとつ、とうめい傘。 おわり